はじめに
日本国内でDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が叫ばれて久しく、経済産業省を中心としたさまざまな支援制度やガイドラインが整備されています。その中でも、国が企業のDX推進体制を公式に認定する「DX認定制度」は、近年とくに注目を集めています。
この記事では、DX認定制度の概要・メリット・認定基準に加え、取得に向けて直面する課題やその解決策としてのマネージドサービスの有効性まで、企業の情報システム担当者(情シス担当者)が知っておくべき実践的な内容を詳しく解説します。
DX認定制度とは?
DX認定制度がどのような制度なのか、その概要と制度が創設された背景を解説します。
制度の概要
「DX認定制度」とは「情報処理の促進に関する法律 第31条」にもとづき、経済産業省が設けた制度です。具体的には「デジタルガバナンス・コード」に対応しているかという観点で評価し、基準を満たした企業を認定します。デジタルガバナンス・コードでは企業のDXに関する自主的取り組みを促進するために、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表といった経営者に求められる対応がまとめられています。
制度の運営主体はIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が管理するDX認定制度事務局となっており、認定企業は公式Webサイト上で「DX認定企業」として公表されるとともに、社外への信頼性や先進性を訴求する有効なツールとなります。2025年6月にも新たに94の事業者が認定されています。
制度創設の背景
2020年にDX認定制度が始まった背景には経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」があります。そこで指摘されたのが「2025年の崖」問題です。ここでは、老朽化・複雑化した既存システムを刷新できなければ、国全体の経済損失が最大で年間12兆円にのぼる可能性があるという試算が発表されました。
その問題意識から生まれたDX認定制度は、形式的な枠組みに留まらず、ITシステムの運用保守から組織・人材の体制整備まで総合的な取り組みを企業に求めています。
DX認定を取得するメリット
認定を受けた企業は以下のような対外的、企業内におけるメリットが見込まれます。
対外的な信頼性向上
DX認定企業であると公にすることで企業としてさまざまな場面で信頼を得るきっかけになります。
- ・ 顧客や取引先に対する先進企業としてのアピール
認定時点でデジタル課題の具体的な把握と戦略の不断の見直しが求められるため、課題解決への継続的な姿勢を示し、信頼性が向上します。さらに、DX戦略を通じた企業文化の変革は革新性と適応力を強調し、魅力的なパートナーとして顧客や取引先に評価されることで、先進企業としての強い競争力をアピールできます。
- ・ ESG評価やサステナビリティにおけるプラス材料
環境(Environment)・社会(Society)・ガバナンス(Governance)を重視した経営に取り組む際、ガバナンス面でプラス材料となります。実際に多くの認定企業がこれをESG経営の一環としてWebサイトやSNSといった媒体で取り組みを発信しています。
- ・ DX関連の補助金や助成金申請での加点要素
DX認定を取得した場合、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金の申請時に加点対象となります。その他にも、助成金や融資などの支援・優遇措置が受けられるため、企業の資金調達を有利に進められます。
採用・人材育成面での効果
認定企業は、「変革を続ける企業」というイメージを外部に訴求できるため、若手人材やDX人材の採用競争でも有利に働くことが増えています。また、社内でもDXスキルの可視化が進み、教育・評価の体制整備が行いやすくなります。実際に、25卒就活生を対象にした一般社団法人中小企業個人情報セキュリティー推進協会の調査によると、約30%の就活生が企業選定においてDX推進の取り組みを重視しているという結果が出ています。
DXプロジェクトの組織的推進
認定取得のための項目がまとめてあるデジタルガバナンス・コードには、経営者・現場・ステークホルダーそれぞれにおいて望ましい方向性が示されており、組織全体でのDX化が必須です。
経済産業省が発表した「DX認定事業者アンケート結果(2024年)」の中でも具体的なコメントとして「社内全体でDXを積極的に推進していく機運が醸成された」「経営層の理解と関与が深まり、DXを企業成長の重要な柱として位置づけることができた」など、推進体制の変化に関する声が紹介されています。
出典元:経済産業省「DX認定事業者アンケート結果(2024年) 」をもとに作成
こういった活動を通して、経営層とIT部門が一体となってDXを推進できる環境づくりが進むことも大きなメリットです。
認定要件と申請の内容
DX認定事業者となるためにはデジタルガバナンス・コードに則った取り組みを行っていることを申請し、証明する必要があります。
認定要件を満たすためのプロセス
DX認定制度取得のために必要なプロセスとしては以下のような内容が紹介されています。
- ・ 経営ビジョンやビジネスモデルの策定
現在のビジネス状況と経営環境の整理および、データ活用やデジタル技術の進化による社会や競争環境への影響を分析し、それを実現するために必要なビジネスモデルの方向性を策定します。
- ・ DX戦略の策定
経営ビジョンに基づくビジネスモデルを実現するためのDX戦略を策定します。とくにデータとデジタル技術の活用を組み込むことが重要視されています。
- ・ DX戦略の達成度を測る指標の決定
DX戦略の推進管理体制を策定し、KPIを設定することで、戦略の進捗を適切に管理し、推進状況を評価するための仕組みを整備します。
- ・ 「DX推進指標」等による自己分析と課題把握
自己分析を行うことで、デジタル変革の状況を客観的に評価し、必要な改善点を明確にします。
- ・ サイバーセキュリティ対策の推進
ITシステム環境の整備に向けた方策を検討し、具体的な推進活動計画を策定します。また、セキュリティ監査の実施概要をまとめることも重要です。とくに中小企業の場合、SECURITY ACTION制度にもとづく二つ星の自己宣言でこれを代替することが可能です。
申請の概要
申請はすべての事業者が可能で、申請期間も通年です。
DX認定事業者となるには、認定要件を確認し、それぞれに対応する申請をDX認定制度事務局に提出する必要があります。約60営業日を審査期間とし、結果が経済産業省へ共有され認定の可否が決定します。その後、事務局を通して事業者に通知されます。

<申請のイメージ>
DX化を推進する企業が抱える課題と解決策
DX認定事業者となるには、まず自社の状況を把握することが重要です。多くの企業がDX化を推進する中で抱えている課題とその解決策を以下に解説します。
既存システムの現状把握が困難
数十年単位で継ぎ足してきた既存システムは、担当者の入れ替わりによって全容が見えないケースが多く存在します。こういった全容の見えないシステムは効率の悪化だけでなく、悪意のある攻撃の対象にもなりやすく、セキュリティ上のリスクを引き起こします。
解決策:システム資産の可視化と棚卸しの実施
専門ツールやサービスを活用して、既存システムの可視化を行い、現状を把握することが可能です。定期的なIT資産の棚卸しを行うことで、システム全体のブラックボックス化を防げます。現状を明確化することで自社の状態を正確に判断しながらビジネス戦略を立案できます。
情報システム部門の人員の逼迫
DX化の推進や、DX認定の取得には文書作成やガバナンスの整備が必要ですが、情報システム担当者は日常の運用・保守で多忙です。そのため、現状の体制では推進が困難なケースも珍しくありません。
解決策:業務プロセスの見直しと社員教育
業務フローの最適化や重複業務を排除し、プロセス改善をすることで、情報システム担当者の負担を軽減し、時間を節約できます。また、社員教育による全社的なITリテラシー向上も解決策の一つとして挙げられます。社員のITスキル向上は、情報システム部門への問い合わせを減らし、担当者が本来の業務に集中できる環境を作ります。
経営層と現場のコミュニケーション不足
DX推進には経営層から現場までの全体的な協力が必要であり、デジタルガバナンス・コードでも重視されている項目の一つです。しかし、コミュニケーション不足が原因で戦略を浸透させることが困難な場合も多く、これがDX実現の障壁となることがあります。
解決策:コミュニケーションの強化と透明性の向上
定期的なミーティングやワークショップを開催し、経営層と現場の意見交換を促進することも解決策の一つです。DX推進の進捗状況や成果を可視化し、全社で共有することで、透明性を高め、全員の理解を深められます。
DX化はDX認定制度、デジタルガバナンス・コードでも言及されている通り、全社的な動きが欠かせません。一方で、どの課題に対する解決策も既存のリソースのみでは時間・専門性共に不足する場合があります。その場合、マネージドサービスのようなアウトソーシングサービスを利用することで担当者の負担を軽減しながらDX化の推進が可能です。また、それぞれ個別システムの運用管理からDX戦略の基礎となる調査まで、依頼内容はカスタマイズが可能なため、自社にとって必要な機能を補えます。
まとめ
DX認定制度は、企業のDX推進体制の本質を問う重要なフレームワークです。認定によって受ける恩恵は大きいものの、とくに大企業においては既存のIT資産が膨大であり、情報システム部門の人的リソースも限られているため、認定取得には現実的な課題が多く存在します。こうした課題を解決する手段として、マネージドサービスの導入は非常に有効です。体制整備やIT資産の可視化、セキュリティ強化など、認定取得に必要な下地を確実に整えるためにも、信頼できる外部パートナーとの連携が不可欠です。DX認定取得を一過性のプロジェクトとせず、組織変革の起点とするためにも、今こそ自社の体制と資源を見直す絶好の機会です。セラクでは、企業のDX化に役立つソリューションおよびプロによるサポートを提供しています。DX化の推進、DX認定制度の申請を検討する上で不明点やお困りごとがございましたら、ぜひセラクへご相談ください。







