2026.04.23

なぜグループ会社の人事システム導入は現場で止まるのか|制度ではなく「構造」が原因だった

なぜグループ会社の人事システム導入は現場で止まるのか|制度ではなく「構造」が原因だった

はじめに

グループ企業の人事システム導入。キックオフは順調で、会議の雰囲気も悪くない。議論も成立しているし、大きな反対意見も出ていない。
それなのに、数か月が経った頃から、「あれ、全然進んでいないな」という空気が漂い始める。
データの提出は遅れ、要件は曖昧なまま。会議では「社内で確認します」「うちは少し特殊でして」という言葉が繰り返される。誰かが強く反対しているわけでもない。それでも決まらない。前に進まない。
あなたにも、こうした場面に心当たりがあるかもしれません。
多くのコンサルタントやWebの記事は、この停滞を「制度が違うから」「システム選定が難しいから」と説明します。
たしかに、それも一因ではあるでしょう。しかし、私たちが伴走してきたプロジェクトを振り返ると、止まる理由はもっと手前のところにあると感じています。

  • 属人化した判断
  • 「神Excel」に押し込められた例外処理
  • 誰が最終判断を持っているのか分からない責任の所在

それらを直視しないまま「統合」を進めようとすると、表向きは現場が協力的に見えても、実質的には止まったプロジェクトになります。
「でも、そんなことをしたら現場の反発が強くなるのではないか」と感じるかもしれませんが、大丈夫です。最初からすべてを壊す必要はありません。
なぜ現場が、合理的に見えて非合理な行動を取るのか。その力学を理解するだけで、打ち手は変わります。
まずは、グループ人事統合が止まる現場で、何が起きているのか。制度論ではなく、構造と心理の観点から整理していきましょう。

危ないプロジェクトは、最初から匂いがしている

進むプロジェクトと止まるプロジェクトの比較

グループ人事統合が途中で止まるプロジェクトには、あとから振り返ると共通点があります。それは、初期段階ですでに違和感が出ているという点です。

  • 議論が進んでいないのに、空気はなぜか穏やか
  • 会議は成立しているように見える
  • 発言もあるし、強い反対も出ていない

けれど、どこか手応えがない。「何かが決まった」という感覚が、最後まで残らない。この段階で嫌な予感がしているなら、その感覚はたいてい正しいです。

誰も、本音で困っていることを話さない

最初に現れるサインは、課題が具体化されないことです。
「今、何に一番困っていますか」と聞いても、返ってくるのは「特に大きな問題はありません」「細かい点はいくつかありますが」といった抽象的な回答ばかり。
一見すると、協力的で前向きです。しかし、深掘りしても具体的な業務や判断、詰まりポイントが出てこない場合は注意が必要です。
この状態のまま進むと、設計が佳境に入ったタイミングで、突然こう言われます。

「実は、そこは現場的にかなり厳しくて」
「今までのやり方を変えるのは難しいです」

不満や抵抗が後出しで噴き出し、プロジェクトは一気に停滞します。初期に本音が出ないプロジェクトほど、後半で必ず歪みが出ます。
これは能力や誠意の問題ではありません。本音を出しても安全だと思えない構造が、最初からあるということです。

責任者が名ばかりになっている

もう一つ、強い危険信号があります。それは、プロジェクトの責任者が実質的に存在していない状態です。
名簿上は「プロジェクトリーダー」や「推進責任者」がいる。けれど、期限に対して強い当事者意識を持ち、「自分の責任で完了させる」という覚悟が感じられない。
この場合、プロジェクトの主体は、いつの間にかずれていきます。

「ベンダーがどう提案するか」
「コンサルがどう整理してくれるか」

本来、判断すべき立場の人が、判断を外に委ね始めるのです。
さらに厄介なのは、責任の所在が曖昧なまま進むことです。経営層への説明、承認の段取り、関係部門との調整。誰がいつ、どこまでやるのかが決まっていない。
この状態では、何かが止まっても誰も困りません。結果として、進まないが、誰の責任でもないプロジェクトが出来上がります。
停滞は、制度やシステムの問題ではありません。最初から責任構造が設計されていないことの、当然の帰結です。

「うちは特殊です」の正体は、制度ではない

人事統合の議論が進み始めると、かなりの確率で出てくる言葉があります。

「うちは、少し特殊でして」

この一言が出た瞬間、会議の空気が変わり、それ以上深く踏み込めなくなってしまう。そして多くの場合、その論点は「個別対応」として棚上げされます。
しかし、ここで一度立ち止まる必要があります。その特殊さの正体は、本当に制度なのでしょうか。

多くの場合、特殊なのは制度ではなく運用です

実務で見てきた限り、「うちは特殊です」と言われるケースの多くは、制度差ではありません。これらの正体は、過去の運用と担当者判断の積み重ねです。
同じ手当なのに、部門ごとに計算方法が違う。理由を辿ると、「昔、こういうケースがあって」「その時は例外的にこう処理した」という話が出てきます。
つまり、制度として整理されたルールではなく、「このケースではこうしてきた」という暗黙の了解が、そのまま残っている状態です。
制度表を見れば、一見きれいに整理されている。けれど実際の処理を聞くと、「ケースごとに判断しています」とか「最終的には人が見ています」という言葉が出てくるのです。
制度は存在しているが、運用は説明できない。このとき、問題は制度ではなく、属人化した判断ロジックにあります。

「特殊」という言葉に含まれる、防衛の意図

もう一つ、見逃してはいけない点があります。
「うちは特殊です」という言葉には、感情や立場の防衛が含まれていることが少なくありません。

  • これ以上、親会社に口出しされたくない
  • 今のやり方を変えると、現場が荒れる
  • 裁量を手放したくない

つまり、「制度が違う」というより、自分たちの判断領域を守りたいという意向です。
厄介なのは、この構図に本社側も無意識に加担してしまうことです。

「ここは無理に踏み込まない方がいい」
「触らなければ、プロジェクトは少し楽になる」

こうして、治外法権のような領域が温存されます。結果として、統合は名ばかりになり、核心には誰も触れない。
「特殊だから仕方ない」で終わらせた瞬間、統合が前に進まない前提条件が確定します。

本社人事が無意識に踏む地雷

ここまで読んで、「では本社人事は、どう動けばいいのか」と考え始めた方もいるはずです。先に伝えておきたいのは、多くの停滞は悪意ではなく、善意から生まれているという点です。
本社人事は、間違ったことを言っているわけではありません。むしろ、正しいことを言っている。ただ、その正しさが、現場の口を閉ざしてしまうということです。

正論で押し切ると、協力は消える

本社と現場の認識のずれ

よくあるのが、次のような発言です。

「統一したほうが効率的ですよね」
「可視化しないと、ガバナンス的に問題があります」
「この業務、なくせませんか」

どれも、論理的には正しいですし、経営視点で見れば触れて当然の話題です。
しかし現場では、別の意味に聞こえています。

「現場の事情を分かっていない」
「その一言で、どれだけ荒れるか知らないのだろう」

特に危険なのが、「この業務は不要では?」という指摘です。現場にとって、こうした一見「非効率」な業務は、曖昧な制度を成立させてきた最後の調整弁であることが多いからです。
その役割を理解しないまま切り捨てられた瞬間、現場は学習します。

「ここでは本音を言わない方がいい」
「余計なことは出さない方が安全だ」

結果として残るのは、表面的な協力だけです。

「分かっていない」と思われた時点で、議論は終わる

もう一つの地雷は、スピード感の押し付けです。
本社側は、期限や外部要請を背負っています。だから、早く決めたい。早く揃えたい。
その焦りが、言葉や態度ににじみ出る。
すると現場は、こう感じます。

「結論はもう決まっている」
「意見を言っても、どうせ変わらない」

この瞬間、議論は終わります。形式上のヒアリングは続いても、実質的な情報は出てこない。
重要なのは、正しいかどうかではありません。どう見えているかです。
本社人事が「現場を理解しようとしている」と感じられるかどうか。そこを外したままでは、その後どれだけ丁寧に説明しても、巻き返すのは難しくなります。

「神Excel」は必要だから残っている

人事統合の議論が進むと、必ず話題に上がるのがExcelです。外から見れば、複雑で属人的で、正直やめたほうがいい。そう感じるのも無理はありません。
しかし、現場があれほど強く手放さないのには、理由があります。

制度で定義しきれない判断を受け止めてきた

神Excelは調整弁

多くの人事制度は、完璧ではありません。例外がある。想定外が起きる。判断に迷うケースが出てくる。
そうした隙間を埋めてきたのがExcelです。

  • 特定条件だけを手動で調整する数式
  • 説明書を見ても分からないシート構成
  • 「ここは触らないでください」と言われるセル

制度として明文化できなかった判断を、人の手で吸収してきた「長年の知恵」なのです。
だから、「システムに載せ替えましょう」と言われた瞬間、現場には「その判断は、どこに行くのだろう」「誰が引き取るのだろう」と不安が生まれます。

属人化が生む安心感と、可視化への恐怖

「神Excel」のもう一つの側面は、属人性です。「このファイルは、あの人しか分からない」というのは、よくある話です。
しかし裏を返せば、属人性があるというのは安心感にもつながっています。困ったときに、誰に聞けばいいかが分かっているからです。
ところが、システム化が進むと、この構造が壊れます。判断は条件に置き換えられ、誰が責任を持っているのかが見えにくくなるのです。
可視化は中立ではありません。判断の所在と責任の所在を、強制的に表に出します。
だから現場は、本能的に抵抗します。Excelを守りたいのではなく、自分たちが引き取ってきた判断と安心感を守っているのです。

制度の問題ではなく、構造と心理の問題だ

停滞しているグループ人事統合で起きているのは、制度設計の失敗ではありません。構造と心理が噛み合っていないだけです。
議論が進まない理由を「制度が複雑だから」とか「例外が多いから」と整理してしまうと、打ち手を間違えます。
本当に見るべきなのは、誰が、どの立場で、どんな判断を引き取ってきたのかという構造です。

本社は統制したい、現場は裁量を守りたい

この構図を、一度はっきり言語化する必要があります。
本社人事は、人的資本の可視化を求められ、説明責任を負っている。だから、ルールを揃え、データを揃え、判断を見える形にしたい。
一方で、現場はどうか。これまで曖昧さを抱えたまま業務を回し、例外を処理し、現実に対応してきた。その裁量があったからこそ、現場は成立していました。
つまり、対立しているのは制度ではありません。統制を引き取りたい側と、裁量を手放したくない側の立場の違いです。この前提を無視したまま、「制度を揃えましょう」「同じシステムに載せましょう」と進めても、うまくいくはずがありません。

統合とは、役割と責任の再定義である

システム導入や制度統合は、よく「業務改善」と言われます。しかし実態は違います。誰が何を決め、誰が責任を負うのかを、決め直す行為です。

  • 今まで現場で判断していたことを、ルールに落とす
  • 人が見ていたものを、条件にする
  • 属人化していた責任を、組織に引き取らせる

これらを進めていくと、必ず誰かの役割が軽くなり、誰かの責任が重くなります。
だから現場は慎重になります。反発するのも、足を止めるのも、ある意味では合理的な反応なのです。
この前提を理解せずに、「なぜ協力してくれないのか」「なぜ決めてくれないのか」と嘆いても、状況は変わりません。
まず必要なのは、こうした構造を直視することです。

止まらなかったプロジェクトが、最初に捨てていたもの

進むプロジェクトのビフォーアフター

ここまで、グループ人事統合が止まる理由を見てきました。では逆に、止まらなかったプロジェクトでは、何が違っていたのでしょうか。
私たちが対応した、あるグループ企業の人事システム統合プロジェクトでは、結果として大きな停滞もなく運用フェーズまで進めることができました。それを可能にしたのは、特別な制度や最新の仕組みを採用したからではありません。最初の段階で、いくつかの「やらない判断」を明確にしていた点です。
たとえば、過去データの扱いです。従来、複数のシステムに分散して管理されていた人事データは、フォーマットも粒度も揃っておらず、すべてを整えて移行しようとすれば、膨大な時間と調整が必要になる状態でした。
このプロジェクトでは、「過去のデータをすべて正しく持ってくる」ことを目的にしませんでした。これから蓄積するデータの価値を優先し、最低限必要な範囲にスコープを切って移行する。その判断を、プロジェクトとして引き取ったのです。
また、「従来の使い勝手」をそのまま再現することも選びませんでした。現場が慣れているから、混乱を避けたいから、という理由で非効率な運用や形骸化したルールを温存すれば、システムは再び例外処理の受け皿になります。
そこで、システム刷新と同時に、判断を人に残していた慣習や、暗黙の運用を見直しました。
これは現場にとっては不安を伴う選択です。だからこそ、「現場で決めてください」ではなく、プロジェクトとして割り切る必要がありました。

もし、この事例で過去データの移行や、従来のExcel運用や使い勝手を忠実に再現しようとしていたら、他の多くのプロジェクトと同じように「会議は成立しているのに、決まらない」という状態に陥っていたでしょう。
プロジェクトがスムーズに進んだのは、「誰が、どの判断を引き取るのか」そして、「どの判断をここで終わらせるのか」ということを、最初に決めていたかどうかです。
人事統合は、すべてをきれいにする作業ではなく、曖昧さをどこまで許容し、どこで手放すかを決める行為です。
その覚悟があるプロジェクトだけが、制度やシステムの議論を前に進めることができます。

まとめ

グループ人事統合が止まる理由は、システム選定でも、制度差でもありません。
本当の原因は、曖昧な判断を曖昧なまま維持してきた構造と、その構造を壊されることへの心理的な抵抗にあります。
会議は成立している。議論もある。それでも進まないのは、誰かが怠けているからではありません。
誰が何を決め、誰が責任を持つのか。それが、最初から定義されていないだけです。
「神Excel」や属人化した判断は、非効率の象徴ではなく、定義しきれない現実を現場が何とか回してきた結果です。
それを理解せずに、「正しさ」や「効率」で切り込めば、現場は黙ってしまいます。協力しているように見えて、必要な情報だけが出てこなくなる。
だから、最初にやるべきことは明確です。制度を揃える前に、曖昧な業務と判断を言語化すること。誰がどの判断を引き取っているのかを、構造として整理すること。
そして、ここが最も重要です。それを現場に丸投げしないこと。属人ロジックをなくすことは、現場にとっては大きなリスクです。だからこそ、プロジェクトの責任者が強い当事者意識を持って牽引していく必要があります。
人事統合は、今まであったものを改善するものではなく、役割と責任を新しく定義しなおす話です。もし今、あなたのプロジェクトが止まっているなら、次の会議で制度や仕様の話をする前に、次の2つだけを問いかけてください。

  • この判断は、今まで誰が引き取ってきたのか
  • それを、これから誰が引き取るのか

そこから逃げなければ、人事統合は机上の空論では終わりません。

もしも今、グループ企業の人事システム導入プロジェクトに停滞感を感じているなら、システムの話を進める前に、一度立ち止まって構造を整理するところから私たちと一緒に考えてみませんか?

私たちセラクでは、人事システムの導入支援について、制度・業務・判断の切り分けから伴走します。以下のフォームより、お気軽にご相談ください。

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