コラム
2025.04.30

HCIに注目して考える!これからの社内ITインフラ選び

HCIに注目して考える!これからの社内ITインフラ選び

はじめに

社内ITインフラの適切な構築は、費用対効果だけでなく、業務効率や従業員の働きやすさといった観点からも重要です。しかしIT分野の進歩は速く、技術革新やトレンドによって「何が最適なのか?」は変わっていくため、製品・サービス検討は簡単ではありません。
そこで本記事では、HCIというキーワードに焦点をあてて、これからの社内ITインフラ選びに役立つ知識をご紹介します。

HCI(Hyper-Converged Infrastructure)とは

HCI (Hyper-Converged Infrastructure)とは、社内ITインフラを仮想化するシステム構成の1つであり、この構成を採用した製品・サービスを指す場合もあります。HCIが登場する以前に主流だった構成よりも、コスト低減や拡張しやすいといった点が強みです。

仮想化は、ハードウェアとアプリケーションの間に抽象化レイヤを挟むことで、より柔軟なシステム構築を可能にする技術の総称です。1960年代にIT用語として定着し、その実現のために、これまでさまざまなシステム構成が考案されてきました。
HCIが登場した2010年代初頭、当初はVDI(Virtual Desktop Infrastructure)つまり「デスクトップ仮想化」目的の利用が多かったですが、現在では「ITインフラの仮想化」に利用される割合が増えています。

社内ITインフラの見直しが注目されている理由

2020年代に入りさまざまなトレンドが重なって、社内ITインフラの見直しや、社内ITインフラ構築の手法に利用できるHCIが改めて注目されています。
このなかでも、世界規模の人口問題からIT分野の技術進歩、シェアの大きな企業の買収といった大きなトレンドについてご紹介します。

人口問題による将来的なITエンジニア不足

近年、多くの先進国で労働人口減少が大きな課題になっています。日本も例外ではなく、2025年以降、団塊の世代と呼ばれる世代が75歳以上の後期高齢者になることもあり、政府は人口減少や人材不足への警鐘を鳴らしてきました。

人材のなかでも、ITエンジニア不足は対処が難しいと考えられます。ビジネスでパソコンが利用されるようになってからまだ約半世紀、日本におけるインターネット利用が始まってから、まだ30年程度の時間しか経っていません。しかし製品・サービスの提供形態だけ考えても、インストールして利用するソフトウェアからWebアプリ、クラウウドサービスまで多様化し、ITエンジニアに求められるスキルも変化し続けています。その結果、エンジニアの持つスキルの個人差が大きく、それぞれの企業が求めるスキルを備えたITエンジニアを探すのは簡単ではなくなっているためです。

これから社内ITインフラに関して考える際には、将来的な人材不足を視野に入れて「無理なく運用を続けられるか」について考慮する必要があるでしょう。

クラウドサービスの急速な普及とその見直し

経済産業省は2018年に発表した「DXレポート」のなかで、「2025年の崖」という印象的なキーワードを用いて、レガシーシステム脱却の必要性を説明しています。要約すると、2025年までにビジネスで利用している既存システムを仕分けし、必要に応じて刷新しつつ業務自体を改善できない場合、非常に大きな経済損失の恐れがあるという内容です。このようなクラウドサービスの必要性が認知されつつあった時期にコロナ禍が重なり、日本国内の多くの企業で導入が加速しました。
しかし導入スピードを重視するあまり、「既存のシステムをクラウドサービスに置き換える」だけに留まり、大きな成果や十分な費用対効果に結びつけられないケースが少なくありませんでした。結果、一度導入したクラウドサービスを置き換えるためにクラウドだけではなくオンプレミスも含めて比較して、より自社にマッチした製品・サービスを探す企業が増えています。

ビジネスで利用するさまざまなシステムやアプリケーションを見直す際にクラウドサービスが候補に挙がった場合には、2つの理由から、同時に社内ITインフラも見直すと効率的です。
1つは、単純にクラウドサービスとして提供されている社内ITインフラ製品が存在するため。そしてもう1つは、利用したいシステムやアプリケーションと相性がよい社内ITインフラ製品を選びたい場合があるためです。

VMware社買収の衝撃

VMware社はITインフラ製品の仮想化市場で世界トップクラスのシェアを誇る企業です。2023年11月、Broadcom社によるVMware社の買収は、クラウドサービスベンダから一般のクラウドユーザまで、広い範囲に大きなインパクトを与え、「脱VMware」がトレンドワードになりました。永続ライセンスからサブスクリプションへといったサービス提供形態や、多数の製品が4つのエディションに集約されるといったように、さまざまな変更があったためです。

競合製品の比較だけでなく、社内ITインフラについて全体的に見直すユーザも少なからず存在し、オンプレミスで社内ITインフラを構築する方法としてHCIに注目が集まりました。

機器構成から考えるHCIの特徴

HCI (Hyper-Converged Infrastructure)の「Converged」は、日本語に訳すと「集約された」という意味です。何がどのように集約されているのか、HCIと従来の仮想化技術の機器構成の違いに着目して、簡単に説明します。

HCIの機器構成

HCIは、制御ソフトウェア「ハイパーバイザー(Hypervisor)」を使い、1つの物理サーバ上で異なるオペレーティング・システム(OS)を持つ仮想マシン(VM)を複数実行するという点は、従来の仮想化と変わりません。HCIは、計算機能やネットワーク機能、ストレージ機能などを仮想化技術により集約したサーバ単独で構成する点が、従来の機器構成と大きく異なります。

HCIではストレージをサーバと別に用意するのではなく、サーバの内蔵ストレージを利用します。利用されるハードウェアは、「IA server」や「x86 server」、「PC server」と呼ばれる標準的なサーバです。パソコン向けとして広く普及しているx86系のCPUやその互換製品を搭載しており、一般ユーザ向けの機器に利用される安価な部品を利用しているため、サーバマシンのなかでも比較的安価です。

HCIが登場する前の3TierおよびCI構成

従来、仮想化基盤を構築する方法として主流だったのは3Tierという構成です。3Tierは、CPUとメモリを搭載した「サーバ」、データを格納する「ストレージ」、サーバとストレージを接続する「SAN(Storage Area Network)スイッチ」という3種類のハードウェアで構成されます。
サーバ台数を削減できるという仮想化共通のメリットがある一方で、サーバとストレージ、SANスイッチという3種類のハードウェアを管理するために、運用管理が複雑でした。

この課題の一部を解決したのが、物理サーバとストレージ、SANスイッチの3種類のハードウェア、ソフトウェアをパッケージングした「CI(Converged Infrastructure)」という構成です。ユーザが利用する前にベンダがしっかりと動作を検証してから提供しているため信頼性が高く、ハードウェア同士の動作相性についてユーザが考えずとも済むようになっています。
しかし、サーバとストレージ、SANスイッチの3種類のハードウェアを使うため、それぞれの製品に関する専門知識を持つ人材が必要だという課題は残っていました。

3TierおよびCIとの比較から考えるHCIの強み

HCIでは、仮想化を実現するために必須のネットワーク機能やストレージ機能が物理サーバに含まれているため、3TierやCIと異なり別途SANスイッチや外部ストレージは必要ありません。ハードウェアの構成が非常にシンプルなため、システムの導入や拡張に柔軟に対応でき、管理者の業務負荷を軽減できます。

HCIで利用されているSDS(Software Defined Storage)技術

HCIには、SDS(Software Defined Storage)と呼ばれる技術が利用されています。SDSの「Software Defined」とは、「ソフトウェアによって定義された」を意味します。ハードウェアと関係なく、複数の標準的なサーバの内臓ストレージを抽象化して、1つの仮想ストレージとして扱う技術です。

ハードウェア視点で考えると、従来はサーバとストレージ、SANスイッチの3種類を利用して構築していたシステムを、HCIはストレージの仮想化によりサーバだけでシンプルに実現しているといえます。

これからの社内ITインフラ選びにおける基本的なポイント

社内ITインフラについて考える際の最も大きなポイントは「自社でハードウェアやソフトウェアを保有するかどうか」です。

「オンプレミスとクラウド」のどちらが有用なのかは、企業の規模や社内ITインフラの利用期間、業務でどのようにITリソースを活用するかなどさまざまな要素の影響を受け、ユーザによって異なるため一概に判断できません。またHCIのような新技術登場や人口減少のような社会的課題の影響を受け、「オンプレミスとクラウド」の相対的な価値は刻刻と変わっています。そのため、適切な選択の指針となる基本的なポイントをご紹介します。

「オンプレミスとクラウド」の構造的な違い

2000年代のクラウドサービス普及により、サーバやストレージに関しても、それまでは各社がハードウェアを保有して運用していたオンプレミスとの比較がはじまりました。

オンプレミスの場合は、イニシャルコストとしてハードウェアとソフトウェア費用、そしてランニングコストとして保守費用がかかります。一方でクラウドの場合は、ランニングコストとして月々の利用料が必要です。コスト面でどちらが優位かは、利用規模や期間といった要素によって変わります。

オンプレミスはクラウドベンダと異なり他社が関わらないため、性能や容量の拡張、セキュリティ強化などニーズに合わせて融通が利きます。一方でクラウドサービスは、それまで社内の情報システム担当者の業務だった管理保守を社外に任せて、運用開始の手間を減らせます。「柔軟性や拡張性」と「運用負荷」をトレードオフしているというのは、オンプレミスとクラウドサービスの変わらない構造的な違いです。

変化する「オンプレミスとクラウド」の相対的な価値

HCIのようなIT関連のさまざまな技術進歩やクラウドサービス同士の競合により、「オンプレミスとクラウド」の相対的な価値は変化しています。

オンプレミスでHCIを利用してシステムを構築することで、社内ITインフラ運用の情報システム担当者への負荷は減り、システムの柔軟性や拡張性は高まりました。クラウドベンダも仮想化技術を利用しており、HCIによってオンプレミスと同じ恩恵を受けていました。しかし、ベンダがどのようにHCI利用によるメリットをサービスプランに反映させるかというバッファを挟むため、クラウドユーザへの影響はオンプレミスより小さくなってしまいます。また技術進歩の影響以外にも、クラウドベンダ同士の差別化競争によりサービスは多様化し、ユーザにとって選択肢は増えたが複雑になってしまったという面もあります。
結果として、昔よりも「柔軟性や拡張性」の差は広がり、「運用負荷」の差は小さくなったといえるでしょう。

将来的に「オンプレミスとクラウド」の価値はどのように変化していくか

社内IT基盤にとって「オンプレミスとクラウド」の相対的な価値は、HCIの登場により変わったように、今後も変わり続けるでしょう。
「運用負荷」の差は小さくなりますが、一方でITエンジニア不足の影響もあり、その差はより重要視されるように変わっていく。また、どちらも「柔軟性や拡張性」は大きくなりますが、ユーザの多くにとっては過剰であり、以前よりも重要視されなくなっていくと考えられます。

このような変化により、ベンダ各社のユーザニーズ対応によってトレンド自体が多様化・細分化し、自社の独自要件にマッチした製品・サービス選びはより難しくなる恐れがあります。

たとえば、すでに近年「クラウドファースト」や「クラウドシフト」、「クラウドリフト」のようにクラウド活用をより推進するというトレンドと逆ベクトルの、「オンプレミス回帰」というトレンドが登場しています。
オンプレミス回帰とは、一度クラウドに移行したユーザがオンプレミスに戻ることです。この「オンプレミス回帰」の大きな理由とされるのが、導入前の想定と実際にクラウドサービスを利用した成果の乖離です。たとえば、通信速度や処理速度といった社外のハードウェアの影響を受けるパフォーマンス面や、先にご紹介したVMware社買収のように費用感が変わってしまうといったことが、乖離の原因になります。

まとめ

HCIのようなキーワードに注目し、関連するトレンドがどのように変わってきたのかを整理することで、効果的に「最適」な社内ITインフラを選びやすくなります。ただ社会的課題や技術進歩などの影響で変化し続けるトレンドについて、継続的にリサーチするのは大変です。
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