個人事業主が法人化するメリット・デメリットは?最適なタイミングも解説


はじめに
- 法人化することで個人事業主よりも信用力が高まるメリットがある
- 個人事業主の法人化には維持管理の複雑化とコスト増加のデメリットも伴う
- インボイス制度により消費税の免税期間が失われる可能性もあるため要注意
- 法人化するタイミングはメリットとデメリットを比較してよく見極める必要がある
- 法人化には法令遵守の取り組みや長期の事業計画策定といった継続的な努力が必要
本稿ではフリーランスをはじめとした個人事業主が、事業を拡大するために法人を設立する法人化について、メリット・デメリット、手続きの流れや最適なタイミングについて詳しく解説します。
個人事業主の法人化とは?
ここで述べる法人化とは、個人事業主から事業形態を法人に変更することを指します。法人とは個人と同様の独立した人格を持つ組織であり、例としては株式会社や合同会社、社団法人やNPO法人などがあります。
個人事業主の法人化では、事業は個人の所有から独立した法人に継承して運営され、法律上の権利と義務が法人に伴います。これにより事業の信用力が向上し、対外的なイメージの向上も期待できます。
個人事業主が法人化するメリット
法人には個人事業にはない、さまざまなメリットが存在します。以下の項目では、代表的な3つのメリットについて解説します。
信用力とイメージの向上につながる
法人は法律によって倒産時などの責任を、出資額を限度とした責任とする有限責任で守られるため、無限責任である個人事業主よりも信用力が高くなります。これは取引先や金融機関との関係構築において大きなメリットです。法人名義の契約を結ぶことで、ビジネスの信頼性や事業に対するイメージを高められます。
節税効果が期待できる
個人所得と法人所得では税率が異なるため、法人化によって所得税の負担を軽減できる可能性があります。法人の方が個人よりも所得税率が低くなる場合があるため、所得額によっては節税効果が期待できます。また、経費として認められる範囲も広がるため、経費計上の幅にも余裕ができます。
資金調達の手段が増える
法人化により、資金調達の手段が増えます。株式や社債の発行による資金調達が可能となり、融資を受ける際の融通性も期待できるため、事業拡大に必要な資金を集めやすくなります。
個人事業主が法人化するデメリット
法人化にはデメリットも存在します。以下の項目では、代表的な3つのデメリットについて解説します。
手続きと管理の負担が伴う
法人化には複雑な手続きが伴います。設立登記や定款作成など、初期段階での手続きが複雑で大きな負担が伴います。また法人としての管理業務も増えるため、事業の内容や形態によっては専門的な知識が要求されることもあります。
事業の維持費が増加する
法人を維持するためには個人事業よりも多くの費用がかかります。例えば、法人税や社会保険料、会計監査費用など、事業の規模に比例して多くの支出が発生します。
経理業務が複雑になる
法人化すると、経理業務がより複雑になります。毎月の給与管理業務をはじめ、出入金の管理も複雑化するため、事業規模によっては専門の担当者が必要です。また定期的な決算報告や税務申告が必要となるため、これらの作業には専門的な知識が求められます。
法人化する手続きの流れ
法人化の手続きでは、複数の役所に専門的な書類を提出するため、手続きの完了には2~3週間ほどかかります。表内の流れが手続きの手順です。
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会社形態の選択
株式会社や合同会社など、適切な会社形態を選ぶ
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定款の作成
会社の基本ルールを定めた定款を作成する
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設立登記
法務局で設立登記を行い、法人としての認定を受ける
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税務署への届出
法人としての税務手続きを税務署に届け出る
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社会保険への加入
従業員を雇う場合は社会保険に加入する義務がある
これに伴い、個人事業として開業している場合には廃業の手続きが、法人に引き継ぐ資産がある場合には引き継ぎや名義変更の手続きが必要になります。複雑な手続きになりますので行政書士や司法書士、税理士との連携も視野に入れると、より確実です。
法人化の最適なタイミング
法人化の最適なタイミングは、事業の成長に応じて判断します。具体的には事業拡大を計画するタイミングや、所得税が高くなり始める頃が適していますが、消費税の課税に関するタイミングも目安になります。以下の項目で詳しく見ていきましょう。
事業拡大や資金調達を検討するとき
事業が成長し、人材採用や設備投資が必要なタイミングは法人化の好機です。法人化することで、採用や事業に対する支援や助成が受けられるようになります。資金面でも社債や株式を使った資金調達ができますし、個人に比べて社会的信用も高まるため、銀行からの融資も受けやすくなります。
事業所得が900万円を超えるとき
個人の所得税率は累進課税のため、課税所得695万円以上で23%、900万円以上で33%に上がりますが、法人の所得税率は800万円を境目に15~23.2%です。そのため事業所得が900万円を超える際は、法人化による節税が期待できます。
ほかにも法人であれば役員報酬による所得の分散や、生命保険・退職金といった経費の幅が広がることで、一層の節税対策が期待できます。そのため事業所得が900万円を超えるタイミングが法人化の好機と言えるでしょう。
参考:国税庁|タックスアンサー No.2260 所得税の税率
参考:国税庁|タックスアンサー No.5759 法人税の税率
事業売上が1000万円を超えるとき
個人事業で事業売上が1,000万円を超えると、2年後から消費税の納税義務が生じます。一方、新設法人で資本金1,000万円未満かつインボイス発行事業者でない場合は※、最長で2年間消費税が免除されるため、その直前の法人化は節税上有利なタイミングと言えます。
※但しインボイス発行事業者となる場合は、申請時点で消費税の課税事業者となり、免税期間がなくなるため注意が必要です。
個人事業主が法人化を検討する際の注意点
法人化を検討する際は手続きやメリット・デメリットの理解のほかにも、注意すべきことがあります。以下で代表的なものを簡単にまとめました。
- 専門家との連携
事業の内容や規模によっては、税理士や弁護士といった専門家との連携が必要になる
- 長期的な事業計画の策定
法人化後の資金調達や経営戦略といった、長期的な事業計画が必要となる
- 法令遵守への取り組み
法人化後は企業の法的な義務を理解するとともに、適切な取り組みを継続する必要が伴う
- 個人事業主に戻ることが難しい
法人から個人事業主に戻るには登記簿から法人格を消し、残った純資産を株主へ返金する手間がかかる
まとめ
個人事業主の法人化には、信用力の向上や節税効果への期待といった多くのメリットがあります。一方で法人化には、手続きの負担や事業管理コストの増加といったデメリットも伴います。法人化を検討する際は、これらをよく比較して最適なタイミングを見極めましょう。
法人化の前後には事業規模の拡大とともに複雑な手続きが伴いますので、これを一人で行うことが難しければ、専門家との連携を視野に入れるとより確実です。本稿が後悔のない選択と法人化を成功させる一助となることを願っています。












