個人事業主になれない人の特徴とは?開業が難しい理由と対策を解説


はじめに
- 開業届を税務署に提出すれば誰でも個人事業主になれる
- 副業禁止の企業に勤めている場合は、上司への相談が必要不可欠
- 法律に触れている場合は、個人事業主になるための要件確認から行う
- 公務員は基本的に副業禁止のため、個人事業主にはなれない
- ただし、非営利活動なら副業と見なされず許可される場合もある
原則として誰でも個人事業主になれますが、この働き方が自分に向いているかどうかの判断は、慎重に行う必要があります。
この記事では、個人事業主になれないケースや、向いている人・向いていない人の特徴などをご紹介します。個人事業主になることを検討する際に、ぜひご参考ください。
個人事業主とは
個人事業主とは法人を設立することなく個人で事業を営む個人のことです。個人事業主になるための要件は特にないため、税務署に開業届を提出することで、原則誰でも個人事業主になれます。従業員を雇用していたとしても、法人でなければ個人事業主と見なされます。
個人事業主は事業者であり労働者には基本的に該当しないため、労災保険と雇用保険へ加入できず、労働法による保護が受けられない点は、大きな特徴です。
個人事業主になれないケースとは?
前述したように、開業届を提出すれば誰でも法的に個人事業主になることが可能です。しかし、以下の条件に当てはまる場合、個人事業主になれないケースがあります。
- 副業禁止の企業に勤めている
- なんらかの法律に触れている
- 本業が公務員である
特に、公務員は信用失墜行為の禁止・守秘義務・職務専念義務の三原則を守る必要があるため、副業は国家・地方公務員法で禁止されています。個人事業主になるということは、公務員でありながら事業を起こすことでもあるため、基本的に認められません。
【理由別】個人事業主になれない場合の注意点
個人事業主になれないケースでは、起業するためには一定の要件を満たす必要や、条件付きの許可を得る必要があります。どちらも満たすことなく起業した場合、法律違反となる可能性があるため、注意が必要です。
ここからは、理由別の注意点をご紹介します。
勤め先の企業が副業を禁じている
企業に勤めている場合、その企業の就業規則で副業が禁止されていることがあります。就業規則での副業禁止は、厳密に言えば法的な拘束力はありません。しかし、企業の機密情報を副業に利用したり情報漏えいの原因となったり、本業への悪影響があった場合は別です。企業内の処罰だけでなく、法律でも厳しく罰せられるでしょう。
どうしても本業と併せて副業を行いたい場合は、副業可の企業へ転職する方法もあります。ただし、副業が本業に悪影響を及ぼす場合には不可とされますので、注意しましょう。
法律の定めに触れている
国や自治体で定められた法律に該当する場合も、個人事業主になれないケースの一つです。ただし、絶対になれないわけではありません。それぞれのケースに該当する要件を満たすことが求められます。
| 対象者 | 内容・注意点 |
|---|---|
| 18歳未満 | 未成年でも個人事業主になれるが、契約を締結する際には親や親族など、法定代理人による同意書が必要。協力が得られなければ開業できない。 親が法定代理人であることを証明するために、戸籍謄本の提出が求められる場合もある。 |
| 成年被後見人・被保佐人・被補助人 | 精神上の障害などによって判断能力が欠如しており、法律行為を適切に行うことが困難と見なされた場合、個人事業主になることを制限される可能性がある。 個人事業主になるには、法的な能力を補うために、適切な法定代理人が必要となる。 |
| 破産者 | 自己破産の経験がある人は信用情報機関に事故情報が登録されるため、金融機関から融資を受けることが難しく、資金調達が困難になる。一定の要件を満たせば事業の再開は可能だが、財務状況の改善策を講じることが求められる。 |
| 禁錮以上の刑に処された人 | 社会的な信用が低く起業も営業も困難になる可能性が高いが、一定の要件を満たせば個人事業主になれる。個人事業主を目指すのであれば、法的な制約内容を理解し、信用回復に努めることが重要。 |
上記にまとめた内容・注意点をおさえることで、個人事業主になれる可能性があるでしょう。ただし、要件を満たすためには本人の適性や能力だけではなく、家族や知人などの協力といった、社会的な状況も必要不可欠です。
本業が公務員である
前述したように、公務員は信用失墜行為の禁止・守秘義務・職務専念義務の三原則を守る必要があります。副業が国家・地方公務員法で禁止されていることから個人事業主にはなれません。
ただし、営利目的でなければ副業と見なされず、許可がもらえるケースもあるようです。以下の表に、副業例としてまとめました。
| 副業例 | 内容・注意点 |
|---|---|
| 投資(株式・FX・仮想通貨など) | 株やFXなどの資産運用は副業に該当しないため、基本的には自由に行うことが可能だが、業務と重複した時間に投資を行うことはできない。三原則の範囲内で行うことが大前提。 ただし、業務で知り得た未公開情報をもとに株式売買を行って利益を得る行為は、インサイダー取引に当たり法律違反となるため、取引方法には要注意。 |
| 不動産 | 不動産は、売却目当ての投資は不可。あくまでも家賃収入を得る目的で、以下条件にあてはまる不動産賃貸業のみが認められる。 ・家屋の賃貸は、物件の数が5棟未満かつ10室未満であること ・土地の賃貸の場合は、10件未満であること ・賃貸する不動産が娯楽・遊戯目的または宿泊目的に使われていないこと(劇場・映画館・ゴルフ練習場・旅館・ホテルなど) ・駐車場の賃貸は、駐車台数が10台未満かつ平面で、機械設備を設けていないこと ・賃貸料収入の年収が500万円未満であること |
| 講演・執筆活動 | 講演や執筆活動は、単発で発生する講演や執筆の場合には許可が必要ないとされている。ただし、定期的または継続的に行う場合は、申請をした上で許可を得る必要がある。活動時間は、他の副業と同様に公務員としての業務時間と重複しないことが重要で、本業に支障がある場合は活動不可となる。 講演における謝礼金は、営利目的でない場合のみ受け取れる。 |
| 農業(小規模・家庭菜園) | 農業をはじめとした牧畜・酪農・果樹栽培などは、自給自足を目的とした小規模農業であれば兼業として認められる。一定の規模を超える場合は承認を得る必要があるため、自己判断せずに勤務先に確認することが重要。 農業が盛んな地域では、公務員と農業の兼業も珍しくないことから、規模が大きい農業でも承認が得られやすい傾向にある。 |
| 家業手伝い | 家業の手伝いは無報酬であれば可能。しかし、国家公務員は非営利団体で自営に該当する副業は基本的に制限されており、地方公務員も自治体の制度や家業の内容などによって可否が異なる。自己判断で進めずに、勤務先の承認を得る必要がある。 やはり、三原則の範囲内であることが大前提。 |
| フリマアプリなどの処分売却 | 不用品を売るだけであれば問題ないが、転売・せどり目的であれば禁止行為に当たる。趣味のハンドメイド品を販売する場合も、作ったが使わない不用品であり、販売価格が原価程度であれば問題ないが、販売頻度が高い場合は禁止行為に当たる可能性がある。 本業に支障をきたさない範囲で行うこと。 |
一部の自治体では副業解禁に向けた動きがあります。本業に支障がなく社会貢献性があるなどの基準・条件がしっかりと定められた場合は、地方公務員の副業が可能となるかもしれません。
個人事業主に向いている人の特徴
開業届を提出すれば個人事業主になれるとはいえ、どういった人が向いているのか、自分の向き不向きが気になる人もいるのではないでしょうか。
ここからは、個人事業主に向いている人の特徴を5つ、ご紹介します。
責任感・責任を負う覚悟がある
個人事業主は、事業に関わるすべての責任を負う必要があります。企業勤めの頃は上司や会社が責任を負っていたことにも、自分で対処し責任をとらなければならないため、相応の責任感や覚悟がなければ務まりません。事業の成功・失敗のすべてが自分次第です。困難な状況下であっても、積極的に改善しようと行動できる人は、個人事業主に向いていると言えます。
責任感をもって仕事に取り組むことで、顧客や取引先とのスムーズな信頼構築につながり、人脈によって事業の発展にもつなげられるでしょう。
向上心・チャレンジ精神がある
個人事業主は、常に目まぐるしく変化する社会情勢や市場動向、顧客のニーズなどに臨機応変に対応する必要があります。そのためには新しいスキルや知識を積極的に学び続ける姿勢も重要となり、向上心やチャレンジ精神がある人には有利です。事業の競争力の維持や継続的な成長にもつなげられます。
さらに、新しいプロジェクトやアイデアに挑戦することで、事業の幅を広げることが可能です。失敗を恐れずに挑戦することで、成功への道を切り開くことができるでしょう。
営業・交渉スキルがある
自分で案件を獲得する個人事業主にとって、営業や交渉のスキルは必要不可欠です。
営業スキルが高い人は顧客のニーズを的確に把握して最適な提案ができ、交渉スキルがある人は取引条件を有利に進められます。営業・交渉スキルがある人は、顧客を獲得しつつ取引を成功へ導けるため、利益を最大化させることが可能です。スキルを磨きながら案件を受けることで、個人事業主としての信頼性が向上し、長期的な成功を収められるでしょう。
自分の裁量で業務を進めたい
自分の裁量で業務を進めたいという意欲は、業務の進行を自分のペースで管理しつつ効率的に成果を上げられるため、個人事業主にとって重要な要素です。裁量権を持つことで、創造的なアイデアを自由に試みることができ、事業の継続性や革新につながります。また、自分の裁量で業務を進めることでストレスを軽減し、充実した仕事環境を築くことが可能となるでしょう。
しっかり自己管理ができる
個人事業主にとって、自己管理能力は欠かせない要素です。自己管理ができる人は、目標に向かって計画的に行動し、時間を有効に使うことが可能です。スケジュール管理やタスクの優先順位付けを行うことで、効率的な業務の遂行や、成果につなげられます。これにより、事業の安定性を維持し、継続的な成長を実現します。また、自己管理能力が高い人は健康管理やストレス対策もしっかりと行えるため、個人事業主としての事業運営を長期的にセルフサポートできるでしょう。
個人事業主に向いていない人の特徴
個人事業主には、さまざまな変化への迅速な対応や、自ら事業を切り開く力が求められます。必要とされるビジネススキルの有無以外に、個人事業主に向いていない人の特徴を4つ、ご紹介します。
主体性・決断力がない
個人事業主が円滑に事業を運営するには、迅速かつ的確な判断が求められます。主体性と決断力が欠けていると、問題の解決に手間取ったり、新しいビジネスチャンスへの対応が遅れたり、重要な場面での選択に迷って機会を逃してしまう可能性があります。
主体性を高めるためには、自らの考えを明確にして、積極的に意見を発信する練習が効果的です。日々の小さな決断を積み重ねて、自信や決断力を養っていくといいでしょう。
コミュニケーションが不得意
コミュニケーション能力が低い場合、個人事業主としての活動に大きな支障をきたします。コミュニケーションが取れないだけでも顧客や取引先などの関係構築が難しく、信頼を得にくくなります。その結果、ビジネスチャンスを逃したり、顧客満足度を低下させたりする可能性があるでしょう。
コミュニケーションが不得意な人は、まず基本的な会話スキルを向上させることが重要です。具体的なポイントは以下の3点です。
- 相手の話をしっかり聞く
- 明確な言葉で自分の意見を伝える
- フィードバックを受け入れる姿勢を持つ
人と関わる機会を積極的に増やし、実践を通じてスキルを向上させると良いでしょう。
保守的・安定性を求める
保守的で安定性を求める人は、挑戦に消極的な傾向にあるため、個人事業主に向いていると言えません。新しい市場やビジネスモデルに対するリスクを恐れて、現状維持を選んでいては競争の激しいビジネス環境での適応が難しく、成長の機会を逃す可能性があります。安定性を求めること自体は悪いことではありませんが、事業を拡大させるためにはある程度のリスクを取ることも必要です。
対策として、リスク管理のスキルを身につけ、小さなリスクから徐々に挑戦していくことでリスクへの耐性を高めるといいでしょう。情報収集も怠らず、市場の変化に対応するための柔軟性が持てると、挑戦にもつなげやすくなります。
自己管理ができない
自己管理ができない人は、個人事業主として成功するのが難しいです。スケジュール管理が甘いと納期を守れず、顧客の信頼を失う恐れがあります。業務の優先順位がつけられなければ、効率的な仕事ができず、結果として事業の成長が妨げられます。
自己管理能力を高めるためには、まず目標設定を明確にし、それに基づいた計画を立てることが重要です。時間管理ツールやアプリを活用して日々のタスクを可視化したり、定期的に自分の進捗を確認したり、必要に応じて計画を見直していくといいでしょう。
まとめ
個人事業主は開業届を提出することで誰でもなれますが、副業禁止の企業に勤める人や法律に触れている人、公務員などは制約があります。特に公務員は副業が法律で禁止されており、個人事業主になることは基本的に認められません。個人事業主にも向き不向きがあり、責任への覚悟を持っていて、向上心やチャレンジ精神、営業・交渉スキルがある人には向いていると言えるでしょう。反対に、主体性や決断力の欠如、コミュニケーションが不得意で保守的な人には向いていないでしょう。











