退職金で確定申告が必要なケース|申告しないとどうなる?


はじめに
- 退職所得の受給に関する申告書を提出することで退職所得控除が受けられる
- 退職金を一時金として、一括で受ける場合は分離課税になる
- 退職金を年金型で、分割して受け取る場合は総合課税になる
- 確定申告を行わないとペナルティにつながるケースもある
- 退職金の節税には確定申告の必要性を見極める判断が重要
人生の重要な財源となる退職金ですが、みなさんは退職金と確定申告の関係をご存じでしょうか。本稿では退職金に関する手続きや受け取り方法、確定申告の要否や節税ポイントを簡単に解説します。
退職金と税金の基本
退職金は人生の重要な節目で受け取る大きなお金です。退職金を一時金として、一括で受け取る場合は特別な税制が適用されるため、通常の給与とは扱いが変わります。確定申告は退職所得の受給に関する申告書を提出していれば不要になりますが、場合によっては必要となるケースもあります。
退職所得の受給に関する申告書(退職所得申告書)とは、退職する際、会社に提出する書類です。所得税法第203条に基づく手続きで、これにより退職金から退職所得控除を適用した所得税が源泉徴収されます。また住民税は会社側で税額を計算し、支払時に天引きして自治体に納入します。
参考|国税庁 A2-29 退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)
退職金の受け取り後に確定申告が必要なケースとは
この項目では、退職金の受け取り後に確定申告が必要になる、代表的な7つのケースについて解説します。以下では、その違いを詳しく見ていきましょう。
ケース1.退職所得の受給に関する申告書を提出していない場合
退職所得の受給に関する申告書を提出していない場合、退職所得控除が適用されず、退職金の額面金額から一律20.42%の税金が源泉徴収されます。控除がなく税率も一律であるため、過払いとなるリスクがあり、これを修正するには確定申告が必要です。確定申告を行うことで、適切な控除が適用され、支払いすぎた税金の還付が受けられます。
ケース2.年金形式で退職金を受け取る場合
退職金は一時金として、一括で受け取る場合は分離課税になりますが、分割して年金形式で受け取る場合は総合課税となり、その際の収入は雑所得として扱われます。金額によっては年金形式の方が節税になる場合もありますが、他の所得と合算して確定申告を行う必要がある点に注意が必要です。
また企業によっては退職金を、一時金と年金形式に分割して支払うケースもあります。そのような場合は一時金の金額は分離課税が、年金形式で受け取る金額は総合課税が適用されます。
ケース3.外国から退職金や年金を受け取る場合
海外から入金される退職金や公的年金は、源泉徴収されないことがあるため、受け取り後に自ら確定申告を行う必要があります。後の項目でも触れますが、これを怠ると延滞税や無申告加算税につながるリスクがあります。
ケース4.医療費控除や寄附金控除などを適用したい場合
退職金の受け取り後、退職控除以外の所得控除を申告する場合には確定申告が必要です。所得控除は医療費控除や寄附金控除など(下表参照)があり、要件を満たすことで控除が受けられます。また申告時には確定申告書に退職所得を記載する必要があります。
- 雑損控除
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 寄附金控除
- 障害者控除
- 寡婦控除
- ひとり親控除
- 勤労学生控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 基礎控除
- 特定親族特別控除※
※令和7年12月1日に施行され、令和7年分以降の年分について適用される
参考|国税庁 タックスアンサー No.1100 所得控除のあらまし
ケース5.年金収入や年金外の所得が一定額を超える場合
公的年金などの収入が400万円を超える場合も確定申告が必要です。その際、複数の公的年金がある場合は、それらを合算して計算します。また、公的年金等に係る雑所得を除いた所得が20万円を超える場合も、確定申告が必要です。
ケース6.事業収入に赤字がある場合
事業収入が赤字になった年は確定申告を行うことで、その赤字を総合課税の黒字(例:給与所得・不動産所得・山林所得など)と通算し、課税所得を減らすことができます。この処理を総合課税の損益通算といいます。
ただし一時金として受け取る退職金は分離課税となるため、退職金(退職所得)と事業赤字は損益通算できません。総合課税の赤字が残る場合は、青色申告の要件を満たすことによって翌年以後3年間、赤字の繰越(繰越控除)が可能です。
ケース7.年末調整が正しく行われていない場合
転職や離職、退職等で年末調整をしていない、または転職等で前職の源泉徴収票を提出していない場合には、所得が正しく申告されないため、税金が高くなる可能性があります。これを修正するには、確定申告で正しい所得を申告する必要があります。
確定申告を行わないとどうなるのか
この項目では、退職金の受け取り後、必要と考えられる確定申告を行わない場合について、そのリスクとペナルティを解説します。
税金を払いすぎることがある
退職所得の受給に関する申告書を提出していない場合、退職金の金額から一律20.42%の源泉徴収が行われます。この処理では一切の控除が適用されないまま、退職金の額面金額を基準に、一律の税率で所得税が計算されます。このような場合に確定申告を行わないと、退職金の所得額や控除額、税率などが訂正されないため、税金を支払いすぎる可能性があります。
延滞税や無申告加算税の可能性
退職金や年金が国外からの入金になる場合などは、条約などで非課税となる場合を除き、受け取る金額が公的年金等に係る雑所得として課税の対象となるため、所得税および復興特別所得税の確定申告を行う必要があります。そのような場合に確定申告を怠ると、延滞税や無申告加算税につながる可能性があります。
参考|国税庁 タックスアンサー No.1622 国際機関に勤務していた人が受給する退職年金に関する課税関係
退職所得控除以外の控除が適用されない
退職所得の受給に関する申告書を提出し、退職金にかかる所得税を源泉徴収で済ませた場合でも、一時金として一括で受け取る退職金は分離課税が適用されます。その他の控除を適用する場合や、事業赤字の損益通算を行う場合などは、自ら確定申告を行わなければ反映されない点に注意が必要です。
退職金にかかる税金の計算方法
この項目では退職金にかかる税金の計算方法について、一時金として受け取る場合(分離課税)と、年金形式で受け取る場合(総合課税)の、それぞれについて解説します。
退職金を一時金として受け取る場合は分離課税
退職所得の受給に関する申告書を提出し、退職金を一時金として一括で受け取る場合は、分離課税が適用されます。退職金は他の所得と合算せず、退職所得控除後の退職所得を算出し、その金額に所得税・復興特別所得税・住民税が課税されます。
- 所得区分:退職所得
- 課税方法:分離課税
- 控除:退職所得控除と課税退職所得金額に基づく税額控除
- 確定申告:退職所得の受給に関する申告書を提出すれば原則不要
- 留意事項:控除額が大きい、社会保険料がかからないが散財リスクがある
一時金として受け取る場合の計算方法
退職金を一時金として一括で受け取る場合の税金は、以下の手順で計算します。
・(退職金-退職所得控除額)×1/2=退職所得金額
| ▼退職所得控除額の計算表 | |
|---|---|
| 勤続年数 | 退職所得金額 |
| ・勤続年数が20年以下の場合 | 40万円×勤続年数(最低80万円) |
| ・勤続年数が20年超の場合 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
算出された退職所得金額から、以下の表に基づいて所得税の税率と控除額が決まります。
| ▼退職所得金額ごとの税率と控除額の一覧表 | ||
|---|---|---|
| A 課税退職所得金額 | B 税率 | C 税額控除の 金額 |
| 1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
| 1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
| 3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
| 6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
| 9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
| 18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
| 40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
また、退職所得に対する住民税率は一律で、課税退職所得金額の10%です。
・住民税額=課税退職所得金額×10%-税額控除+均等割額
参考|国税庁 退職金と税 所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額の計算方法(令和7年分)
退職金を年金形式で受け取る場合は総合課税
退職金を年金形式で受け取る場合は総合課税が適用されます。公的年金などと同様に雑所得として扱われ、他の所得と合算して確定申告を行います。これにより受け取る年金額と他の所得、年齢などに応じて、所得税と住民税が課税されます。
- 所得区分:雑所得
- 課税方法:総合課税
- 控除:公的年金等控除と確定申告で申告する各種の控除
- 確定申告:年金以外の所得や控除の申告がある場合は必要
- ポイント:散財リスクは少ないが控除額も小さい、社会保険料が増える可能性もある
年金形式で受け取る場合の計算方法
退職金を年金形式で受け取る場合の税金は、以下の手順で計算します。
-
雑所得の金額を計算する
公的年金の収入金額(合計)-公的年金等控除額=雑所得
-
総所得金額を計算する
雑所得の金額(退職年金はここに含まれる)+その他の所得金額=総所得金額
-
課税所得金額を計算する
総所得金額-各種の所得控除額=課税所得金額
-
所得税額を計算する
課税所得金額×税率-控除額=所得税額
※税率と控除額は下表(所得税の速算表)を参照 -
住民税額を計算する
課税所得金額×10%(住民税率)-税額控除+均等割額=住民税額
| ▼所得税の速算表 | ||
|---|---|---|
| 課税される所得金額 | 税率 | 税額控除の 金額 |
| 1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
| 1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
| 3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
| 6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
| 9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
| 18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
| 40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
参考|国税庁 タックスアンサー No.2260 所得税の税率
確定申告の具体的な手続き
この項目では、確定申告を行う場合の必要書類と、手続きの手順について、以下のリストにまとめました。
-
必要書類を準備する
・退職所得の源泉徴収票(退職した勤務先が発行)
・医療費控除や寄附金控除を申告する場合は領収書)
・年金形式で受け取る場合は、年金の支払金額が記載された書類 -
申告書を作成する
税務署から入手して手書きで作成するほか、会計ソフトや国税庁のWebサービス(確定申告書作成コーナー)での作成も可能
-
提出する
税務署に持参、郵送、またはe-Tax(電子申告)を使って提出
-
申告期間は以下の通り
確定申告の期間は原則として翌年2月16日から3月15日まで(日祝順延)
まとめ
退職金は人生の重要な財源ですが、税金の扱いを理解していないと損をすることがあります。退職金の受け取り方や納税金額で損をしないためにも、確定申告の必要性を判断し、適切な控除を適用して税負担を最小限に抑えましょう。
疑問点があればできるだけ早めに、会社側の経理や所轄地域の税務署に質問するとよいでしょう。必要書類や手続きの管理を徹底し、安心して新たな人生をスタートさせてください。本稿が理解の一助となることを願っています。












