個人事業主は失業保険をもらえる?条件や申請方法を解説


はじめに
- 個人事業主も一定の条件を満たせば失業保険を受けられる
- 失業保険の受給には失業状態であることが必要
- 開業する場合は再就職手当が受けられる
- 開業準備の段階からハローワークに報告が必要
- 不正受給とみなされないよう正しい申告が必須
本稿では、個人事業主が失業保険を受給するための条件や手続きにフォーカスして、制度の概要とポイントを解説します。また必要な書類や申請の流れ、注意点についても紹介します。
失業保険とは
失業保険(雇用保険における失業手当・失業給付金)とは、離職後の生活を守り、スムーズな就職を支援する手当の給付制度です。失業保険を受給するには雇用保険の加入が必要です。
離職者の区分には自己都合退職(一般受給者)・特定理由離職者(自己都合退職であっても正当な理由がある者)・特定受給資格者(倒産・解雇等による退職者)があり、給付に必要な雇用保険の加入期間や給付開始までの待機期間(給付制限)などが異なります。
参考|厚生労働省 ハローワークインターネットサービス 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要
個人事業主として失業保険をもらうには
失業保険をもらうには失業状態にあることが必要とされます。つまり離職直後に開業した場合は、失業保険がもらえなくなることに注意が必要です。以下の項目では、満たすべき受給要件と、その内容について詳しく解説します。
満たすべき受給要件
個人事業主が失業保険を受給するための要件を以下の表にまとめました。
| 個人事業主が失業保険を受給するための要件 | |
|---|---|
| 失業の状態にある | ハローワークに求職申請を行っており、就職への意欲・能力・活動があるにもかかわらず、職業に就けない(就業がない)状態。開業もしくは、その準備にある場合も就業とみなされる点に注意が必要 |
| 必要な雇用保険被保険者期間を満たしている | 離職日以前の2年間に12か月以上の加入期間が必要(倒産や解雇による離職の場合は、離職日以前1年間に6か月以上の加入期間があれば受給可能) |
| 求職活動実績がある | ハローワークを通じた求人への応募、ハローワークや許可・届出のある民間事業者等が実施する職業相談や職業紹介、公的機関が実施する職業相談や企業説明会等、再就職に資する各種国家試験、資格や検定等の試験受験など |
| 受給期間内の廃業 | 離職後すぐに開業した場合であっても受給期間内に廃業した場合は失業保険の給付が受けられる。受給期間は原則1年だが個人事業の開業者には延長特例がある(後述) |
参考|厚生労働省 東京ハローワーク 求職者給付に関するQ&A
受給金額と受給のタイミング
失業保険における1日あたりの給付金は基本手当日額といいます。基本手当日額は離職前6か月の給与合計を180で割った金額(賃金日額)のおよそ45~80%です。この割合は賃金の低い人ほど高くなります。年齢の区分ごとに上限があり、以下のように定められています。
| 基本手当日額の上限(2025年8月1日現在) | |
|---|---|
| 30歳未満 | 7,255円 |
| 30歳以上45歳未満 | 8,055円 |
| 45歳以上60歳未満 | 8,870円 |
| 60歳以上65歳未満 | 7,623円 |
受給要件を満たした状態でハローワークの手続きを進め、待機期間の7日と、制限期間(1か月から3か月、一般受給者の場合)の後に受給開始となります。
給付日数と受給期間
失業保険の基本手当の所定給付日数(手当を受け取れる日数)は、離職日の年齢や雇用保険の被保険者期間、離職理由などから決定され、90日から360日の範囲で定められています。
| 自己都合退職の給付日数 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 被保険者期間 | ||||||
| 1年未満 | 1年以上 5年未満 | 5年以上 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 | ||
| 区分 | 全年齢 | 90日※ | 90日 | 120日 | 150日 | |
※特定理由離職者の場合、被保険者期間が6か月以上あれば受給資格が得られます
| 特定受給資格者および一部の特定理由離職者の給付日数 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 被保険者期間 | ||||||
| 1年未満 | 1年以上 5年未満 | 5年以上 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 | ||
| 区分 | ||||||
| 30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ―― | |
| 30歳以上35歳未満 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | ||
| 35歳以上45歳未満 | 150日 | 240日 | 270日 | |||
| 45歳以上60歳未満 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | ||
| 60歳以上65歳未満 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 | ||
参考|厚生労働省 ハローワークインターネットサービス 基本手当の所定給付日数
失業保険の受給期間(給付が受けられる期間)は、離職日翌日から1年以内です。
受給期間に関する特例
失業保険の受給期間(給付が受けられる期間)は離職日翌日から1年以内ですが、2022年の7月から雇用保険受給期間に関する特例により、個人事業主の場合には最大3年間、失業保険の給付期間が延長されました。
この特例により個人事業主の場合、開業後の3年間に1年の受給期間が加わり、失業保険の対象期間は最大4年間となります。この手続きは事業開始の翌日から2か月以内の申請が必要です。
参考|厚生労働省 雇用保険受給期間の特例を申請できます(PDF)
個人事業主として再就職手当を受給するには
再就職手当は、失業保険の対象者が早期就職を果たした際に受け取れる手当です。この手当は個人事業主として開業した場合にも受け取れます。
給付額は、支給残日数×基本手当日額×給付率で計算されます。給付率は支給残日数が3分の2以上ある場合は70%、3分の1以上3分の2未満の場合は60%とされ、3分の1を下回っていた場合は支給されません。以下の項目では再就職手当の受給要件や受給のタイミングについて解説します。
再就職手当を受給する要件
再就職手当を受給するためには、以下の要件すべてを満たす必要があります。
- 7日間の待機期間が終了した後に事業を開始すること
- 過去3年間以内に再就職手当を受け取っていないこと
- 退職前の企業で一定期間雇用保険に加入していること
- 基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あること
- 1年以上事業を継続できると認められること(開業する場合)
受給のタイミング
再就職手当の受給には申請から2か月程度かかります。
上記の要件をすべて満たしたうえで、事業の開業に伴う再就職手当の支給申請を行う必要があり、1から2か月程度の審査を経て発行される再就職手当の決定通知書が届いてから、おおむね1週間以内とされています。
個人事業主として失業保険・再就職手当を受給する手続き
この項目では、個人事業主として失業保険および再就職手当を受給する手続きについて解説します。
失業保険の手続き
この項目では、失業保険の受給に必要な書類と手続きをまとめました。
- 雇用保険被保険者離職票(1と2)
- 写真付きの本人確認書類
- マイナンバーの確認書類
- 預金通帳またはキャッシュカード
- 証明写真(正面、上三分身、縦3.0cm×横2.4cm)
- ハローワークで失業手当の手続きを行う
- 雇用保険受給者初回説明会に参加する
- 求職活動を行う
必要書類をそろえて手続きを行うことで失業認定日が決まります。以降4週間に1回のペースで迎える認定日ごとに、2回以上の求職活動実績を報告することで、失業保険(失業給付金)を受給できます。
参考|厚生労働省 兵庫労働局 失業給付金を受給するまでの流れ(PDF)
再就職手当の手続き
再就職手当を受給するには、失業保険の手続き後さらに追加の手続きがあります。以下に必要な書類と手続きをまとめました。
- 再就職手当支給申請書
- 雇用保険受給資格者証
- 個人事業を証明する書類(開業届や事業計画書など)
- マイナンバーの確認書類
- 写真付きの本人確認書類
- 印鑑(手続き時に必要になることがあるため)
- 開業のための書類を用意する
- 最寄りの税務署に開業届を提出する
- ハローワークで再就職手当を申請する
繰り返しの説明になりますが、再就職手当は申請から受給までに、おおむね2か月程度を要します。
参考|厚生労働省 岡山労働局 自営開始を予定している方へ(PDF)
不正受給に関する注意点
失業保険を受給する際に不正行為が行われた場合、受給額の返還だけでなく、さらに最大2倍に相当する額の納付(いわゆる3倍返し)が命ぜられるため、注意が必要です。以下の項目では、不正行為とみなされる代表的な例を3点紹介します。
給付中の収入を申告しなかった場合
失業保険は、失業状態を満たしていることが受給条件となるため、受給中にあった収入を申告しなかった場合、不正受給とみなされます。したがって個人事業主はアルバイト収入や事業収入などが発生した場合、必ず申告しなければなりません。
虚偽の求職活動を申告した場合
失業保険には、就業への積極的な姿勢も受給条件に含まれています。このため活動実績のない就職活動の申告も、虚偽申請による不正受給とみなされることがあります。この報告は制度の根幹をなすものですので、正しく活動と報告を行ってください。
開業準備の事実を申告しなかった場合
雇用保険法では、個人事業は開業準備の段階から就労とみなされます。そのため失業保険を受給する個人事業主は、自営開始を予定する段階からハローワークに、その事実を申告・相談する必要があります。これは開業のタイミングにも影響するため、注意が必要です。
まとめ
個人事業主も、失業状態にあることを含む一定の条件を満たすことで、失業保険の受給対象になります。離職後すぐに開業する場合は失業保険の対象になりませんが、正しく申告・手続きを行うことで、失業保険受給期間の延長特例や再就職手当といった支援が受けられます。
但し、開業する際には準備の段階から就労とみなされるため、ハローワークへの報告・相談が必須です。制度とともに申請方法や満たすべき要件を理解し、適切に手続きを進めましょう。不安な場合はハローワークや専門家に相談し、最適な選択を検討してください。本稿が雇用保険活用の一助となれば幸いです。











