オファリングとは|導入メリット・選び方・リスク対策など


はじめに
- オファリングとは企業が提供する製品やサービスを組み合わせた包括的な提案内容のこと
- 主なITオファリングの種類は製品オファリング、サービスオファリング、技術オファリングの3つ
- 導入メリットは、コスト削減、最適な機能・サービス利用、競争力向上、万全なサポート利用、人材育成・組織開発・業務改善
- 選び方のポイントは、目的・課題の明確化、柔軟性・拡張性・コストと効果のバランスの検証、サポート・セキュリティ体制の確認
近年、IT業界でオファリングという言葉が使われるようになりました。もともとはコンサルティング業界やシステムインテグレーターで使われてきた言葉ですが、近年はクラウドやSaaSを提供するIT企業でも一般的になりつつあります。この記事では、オファリングの基礎知識について解説します。
オファリングとは
オファリング(Offering)とは、使用される業界によってニュアンスは異なりますが、一般的には企業が提供する製品・サービス、あるいはそれらを提供する活動全般を指す言葉です。
コンサルティング分野のオファリング
オファリングという言葉は、従来、おもにコンサルティング業界で用いられてきました。
顧客の課題やニーズに対し、コンサルティング企業が提供する一連のサービスや提案内容を指します。具体的には、特定テーマ・課題に対するコンサルタントの専門知識を組み合わせ標準化・パッケージ化したものです。
IT分野のオファリング
IT業界でも近年オファリングという言葉が使われるようになりました。IT分野におけるオファリングとは、IT企業が顧客に提供する技術的な製品・サービス・ソリューションの総称です。
ソフトウェアやハードウェアといった個別の製品だけでなく、それらに加えて導入支援・運用・保守・コンサルティングなどを組み合わせた、パッケージ型の提案・提供モデルを指します。
主なオファリングの種類
オファリングにはさまざまな種類がありますが、ここではITの代表的な3種類を解説します。
1 製品オファリング
オファリングの1つ目として解説するのは「製品オファリング(Product Offering)」です。企業が顧客に提供する製品と、その製品が顧客にもたらす価値や体験・関連サービスを含めた提供物全体を指します。
汎用的な市場ニーズや課題に対して標準化された仕様で広く提供されることが特徴で、基本的にはクライアントごとの個別カスタマイズはせず共通の仕様で提供されます。例を以下に記載します。
- Microsoft 365
Word、Excel、Teamsなどのアプリケーション機能を提供
- Salesforce
営業・顧客管理の機能セットを提供
2 サービスオファリング
オファリングの2つ目として解説するのは「サービスオファリング(Service Offering)」で、企業が顧客に提供するサービス内容を体系的にまとめたものです。例を以下に記載します。
- クラウド導入支援オファリング
クラウド環境の設計・構築・移行支援を体系化して提供
- セキュリティ診断オファリング
システムぜい弱性の診断、改善提案までをパッケージ化して提供
3 技術オファリング
オファリングの3つ目として解説するのは「技術オファリング(Technology Offering)」です。顧客が自身の製品やサービスなどに組み込むことを目的とした、インフラ・ツール・プラットフォーム・APIなどの技術的な要素をパッケージ化したものです。例を以下に記載します。
- エンタープライズ向けAPIパッケージオファリング
外部サービスと連携するための認証、決済、データ連携などのAPI群セットをパッケージで提供
- ローコード・ノーコード開発プラットフォームオファリング
アプリケーション開発に必要なツール、データベース、インフラを一体化した環境をパッケージで提供
オファリングを導入するメリット
オファリングを導入する主なメリットを5つのポイントに分けて解説します。
1 コスト削減
メリットの1つ目は、オファリングの導入によりシステム開発やインフラ構築・運用などのコスト削減が期待できることです。自社開発・運用と比較して、コスト構造が大きく変わります。
- 柔軟なリソース調整が可能
技術オファリングの核であるクラウドサービスによって需要に応じてリソースの増減ができる
- 運用・保守コストの削減が可能
運用・保守などでサービスオファリングを利用することで費用の削減ができる
2 最適な機能・サービスの利用
メリットの2つ目は、オファリング利用で自社に最適な機能・サービスを利用できることです。
既存の製品やサービスがパッケージ化されており、必要に応じて内容をカスタマイズできるため、自社に合ったサービスを選択できます。また豊富な導入実績や成功事例があるため、企業は実績のある解決策として安心して導入できます。
3 競争力の向上
メリットの3つ目は、オファリングで競争力向上ができることです。
製品・技術・ノウハウがパッケージ化されているため、ゼロからシステムを開発する場合と比較して圧倒的に早く事業を立ち上げることが可能です。市場投入までの時間が短縮され、結果として競合他社に対する優位性を確立できます。
4 万全なサポートの利用
メリットの4つ目は、オファリング利用で充実したサポートを受けられる点です。
オファリングは、提供企業があらかじめ設計・構築したパッケージを利用します。そのため導入企業はシステムやツールを購入するだけでなく、導入後も継続的な支援や改善サポートを受けることができます。
5 人材育成・組織開発・業務改善
メリットの5つ目は、オファリング利用で人材育成・組織開発・業務改善が可能になることです。
オファリング導入は、人・組織・業務の3側面に好影響をもたらし、企業の持続的な成長を支える基盤づくりにも大きく貢献します。
- 人材育成
実践的なITスキルを習得できる
- 組織開発
連携・風土改革が進む
- 業務改善
効率化・標準化が進み、生産性が向上する
オファリングの選び方
オファリングを選定する際のポイントを4つ解説します。
1 目的や課題を明確にする
何のために導入するのか、目的を明確にすることが最も重要です。パッケージ化された内容が、自社の目標達成や課題解決につながるかを慎重に確認する必要があります。
コスト削減・業務効率化・データ分析強化など、目的に応じて最適な内容は異なります。
例を以下に記載します。
- 人手不足を補いたい → 自動化・RPA系オファリング
- クラウド移行を進めたい → インフラ系オファリング
- データを活用したい → 分析・AI活用系オファリング
2 柔軟性・拡張性の検証
柔軟性と拡張性は、そのシステムが企業の固有のニーズと将来の成長にどこまで対応できるかを判断するための重要な要素です。
オファリング選定は、現在の業務への適合性だけで判断しがちですが、業務の変化や事業の成長にどこまで対応できるかという中長期的な視点も同様に重要です。この2つの要素をバランスよく備えたオファリングを選ぶことで、導入効果を長期的に維持しビジネスの成長を支える基盤を構築できます。
- 柔軟性
現行業務への適合性を高める要素
- 拡張性
将来の要件追加・規模拡大に対応する可能性を高める要素
3 コストと効果のバランス見極め
導入費用(イニシャルコスト)だけでなく、運用費用(ランニングコスト)や期待できる効果も総合的に評価しましょう。費用に見合った価値があるかを見極めることも重要な選定ポイントの1つです。
4 サポート・セキュリティをチェック
サポート体制やセキュリティは、オファリング導入後の安定運用と企業の信頼性を直接左右する重要な要素です。選定時には機能だけでなく、これらの見えない品質を評価することが長期的なビジネスリスクの回避につながります。
- サポート
トラブル時や運用課題に迅速かつ的確に対応してもらえるか
- セキュリティ
企業のデータやシステムを長期的に守る仕組みが整っているか
導入リスクと対策
1 ベンダーロックインのリスク
オファリング導入に伴うリスクの1つ目はベンダーロックインです。特定のベンダー(提供企業)に過度に依存し他社への乗り換えが困難になる状態に陥るリスクです。
- 標準APIやオープンな規格の採用、データのエクスポート権や可搬性に関する条項、環境の撤去と移行手順を含むエグジット計画を契約の段階で明文化しておく
2 コスト超過のリスク
オファリング導入に伴うリスクの2つ目はコスト超過です。初期導入コストに加えて、カスタマイズ費用、運用・保守費用、サポート費用などが想定以上にかかり、総コストが予算を大幅に上回ってしまうリスクのことです。
- 複数のシナリオを想定して見積もりの精度を高め、予実管理(予算と実績を比較・分析し、計画と実際の差異を把握・改善する管理手法)を徹底する
まとめ
オファリングとは、企業が顧客に対して提供する価値の集合体を指す言葉であり、製品やサービスを組み合わせた包括的な提案内容を意味します。
IT業界のオファリング導入には、コスト削減や競争力向上など多くの効果が期待できる一方で、ベンダーロックインやコスト超過といったリスクも存在します。
この記事で解説したポイントを参考に、自社へ適したオファリングの導入を検討してみてはいかがでしょうか。













