買いたたきとは?フリーランスが注意すべき違法ケースを解説


はじめに
- 買いたたきとは、業務を委託する事業者が相場より低い報酬を一方的に決める行為
- 報酬額が低いからといって、そのすべてが法律違反の買いたたきになるわけではない
- フリーランスの取引には買いたたきと似たトラブルもあるため正しい情報把握が大切
- 買いたたきが疑われる場合は、まず事実と書類を集めて確認する
- 泣き寝入りを避けるため、相談できる窓口を早めに知っておくことも有効
フリーランスの多くが、一度は「この仕事の報酬、安すぎるのではないか」といった不安を感じたことがあるのではないでしょうか。「断ったら、もう次の仕事はもらえないかもしれない」という悩みもよく聞かれます。
しかし、報酬が安く感じるからといって、そのすべてが法律違反の買いたたきにあたるわけではありません。本稿では、買いたたきの定義や、どのような場合に法律上問題となるのかをわかりやすく解説します。
※本稿でのフリーランスとは、業務委託の請負側で従業員を使用しない者(フリーランス法の対象となる特定受託事業者)を指します。
買いたたきとは
買いたたきとは、業務を委託する事業者がその立場を利用し、通常の対価に比べて著しく低い報酬額で仕事やサービスを行わせることを言います。法律でも禁止行為とされており、悪質なケースは違法と判断されます。
公正取引委員会の資料によると、買いたたきとは、同種の仕事に対して通常支払われる対価と比べて、著しく低い報酬額を不当に定めることとされています。これは、単に金額が安いということだけではありません。普通に支払われる料金と比べて著しく低いこと、そして十分な話し合いをせずに一方的に決めるという不当な決定方法が、違法性を判断する基準になります。
フリーランスが業務委託を行う上でも、この判断基準は非常に重要です。例えば、Webサイト制作やシステム開発の仕事で、相場からかけ離れた低い金額を一方的に提示され、それを受け入れざるを得ない状況に追い込まれるような場合は、買いたたきに該当する可能性があります。
参考:公正取引委員会|委託事業者の禁止行為
参考:公正取引委員会|フリーランス・事業者間取引適正化等法 PDF
買いたたきは安い発注すべてを指すわけではない
間違いやすいのは、相場よりも報酬額が安い仕事のすべてが買いたたきにあたると考えてしまうことです。しかし実際には、安価な仕事のすべてが違法になるわけではありません。
大切なのは、その金額が通常支払われる報酬に比べて著しく安いかどうか、そして金額が話し合いもせず勝手に決められたかどうかという点です。例えば、発注側とフリーランスが対等な立場で十分に交渉を行い、お互いが納得して決めたのであれば、たとえその報酬額が世間の平均より低くても、すぐに買いたたきとは言えません。
公正取引委員会は、買いたたきの具体的な例として、次のようなケースを挙げています。
- 多量に発注することを前提とした安い見積もりをとったにもかかわらず、実際には少量の発注に対してその安い単価をそのまま適用すること
- 材料費や電気代、手間賃などが値上がりしているにもかかわらず、話し合いもなしにこれまでの低い金額のまま据え置くこと
参考:公正取引委員会 |下請法 知っておきたい豆情報 その12
したがって、買いたたきとして違法になるのは、市場相場や類似案件と比べて著しく低く、かつその報酬金額が発注側の優位な立場を利用して一方的に押し付けられた場合に限られます。
取適法とフリーランス法での買いたたきの違い
買いたたきは、主に「取適法」と2024年11月1日に始まった「フリーランス法」の2つの法律で禁止されています。取適法とは、これまでの下請法を改正した法律です。どちらの法律においても、通常支払われる対価と比べて著しく低い金額を一方的に決めることは禁止されており、基本的な考え方は共通しています。
自身がフリーランスとして活動している場合、多くはフリーランス法が関係します。ただし、相手企業の規模や自身の事業形態によっては取適法が適用されることもあります。これらの法律について、以下に簡単にまとめました。
取適法(とりてきほう)
正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」です。保護の対象は中小企業から個人事業主、フリーランスまで幅広く、資本金や従業員数の規模によって適用基準が定められています。例えば、中小のWebサイト制作会社が大企業からシステム開発の仕事をもらうときなどがこれにあたります。
参考:公正取引委員会|2026年1月から『下請法』は『取適法』へ! PDF
フリーランス法
業務委託の請負側で従業員を使用しないフリーランスと、仕事を委託する事業者との取引が対象です。文章を書くライター、デザイナー、システムを作るITエンジニアなどが該当し、個人で働くフリーランスが企業などから仕事をもらうときに適用されます。
参考:公正取引委員会|フリーランス・事業者間取引適正化等法 PDF
参考:公正取引委員会|フリーランス法がわかる特設サイト
買いたたきに該当する可能性があるケース
ここでは、フリーランスが実際の仕事で経験しやすい、買いたたきになるかもしれない具体的な例を紹介します。
コスト上昇分を協議なく据え置かれる
フリーランスにとって、さまざまなコストの値上がりは、仕事の費用や利益に大きく影響します。例えばWebサイト作成で使う画像素材の値段が上がったり、ライティング業務のリサーチ費用が増えたり、電気代が上がったりと、業務にかかるコストは変動します。
このような値上がりがあるにもかかわらず、仕事を頼む側が何の話し合いもせず、これまでの安い金額のまま据え置きにするケースは、買いたたきになる可能性があります。特に、フリーランス側から価格交渉を申し出たにもかかわらず、相手がはっきりとした理由を示さずに据え置いたり、協議自体を拒否したりする場合は注意が必要です。
公正取引委員会は材料代や電気代、手間賃などが上がったときに金額の調整について話し合いをしないまま価格を据え置くことや、据え置く理由を明確に回答しないことは、買いたたきにあたる可能性があるとしています。
参考:公正取引委員会|下請法 知っておきたい豆情報 その11
ライターやデザイナーで言えば、パソコンやソフト、インターネット接続環境などの維持コストが上がったことや、リサーチや仕様変更の手間が増えたことなどがコスト上昇分に該当します。
発注者から一方的に低い価格を指定される
「この報酬金額で受けてほしい」と、発注側から非常に安い金額を一方的に指定されることがあります。このように金額を提示して依頼すること自体がすべて違法になるわけではありません。しかし、その金額が相場に比べて著しく低く、かつフリーランスと話し合わずに一方的に決められた場合は、買いたたきに該当する可能性があります。
例えば類似のWebサイトを普通に制作すると数百万円かかるケースにおいて、個人事業主やフリーランスに対しては数十万円という不当に安い金額を一方的に提示し、「これを受け入れなければ仕事を発注しない」と迫る状況は、買いたたきと判断される可能性があります。
フリーランス法では、仕事を頼む側がフリーランスと十分な協議を行わず、一方的に著しく低い報酬を定めることを禁止しています。価格を決めるときは相手の得意な技術や経験、これまでの実績、かかる時間や手間などをしっかりと考慮し、相場を大きく下回らないように丁寧な協議を行うことが求められます。
追加作業込みで同じ報酬を求められる
当初の契約に含まれていなかった追加作業や、多すぎるやり直しを、契約時の報酬のまま求められるトラブルも多く見られます。例えばライティングの仕事で、予定になかったキーワード選定や構成案の作成を追加で求められたり、システム開発で、新機能の追加を要求されながら「予算は増やせない」と言われたりする状況です。
このように追加の対価を支払わないまま作業を増やす要求は、買いたたきだけでなく、発注内容の一方的な変更や不当なやり直しという、フリーランス法で禁止されている別の違反行為にも当てはまる可能性があります。
フリーランスに悪い点がないのにもかかわらず、追加の報酬を支払わずに仕事を増やしたり、できあがったものを無償で何度もやり直させたりして負担を強いる行為は禁止されています。当初の契約にない仕事を頼むときは、その分の追加報酬についてしっかりと話し合い、新しい金額を決める必要があります。
買いたたきと混同しやすい取引トラブル
買いたたき以外にも、フリーランスが経験しやすいトラブルはいくつか存在します。そのようなときには、自身の直面している問題がどれにあてはまるかを知ることで、正しい解決方法を考えることができます。ここでは報酬の減額・支払遅延・不当なやり直しなど、買いたたきと混同しやすいトラブルを整理します。
契約後に報酬を減額されるケース
買いたたきと似ていますが、契約後に発注側から一方的に報酬の減額を求められたり、フリーランス側に責任がないにもかかわらず手数料や修正費用といった名目で、最初に合意した金額から勝手に差し引かれたりするケースがあります。これは契約時の合意価格そのものを後から下げる行為であり、フリーランス法で禁止されている報酬の減額に当てはまります。
フリーランス法では、フリーランス側に問題がないにもかかわらず、発注後に当初の報酬金額を減らすことを禁止しています。発注側の売上減少や予算の都合、原材料価格の下落といった理由は、フリーランスの責任ではありません。いかなる名目であっても、一方的な報酬の減額は認められません。
このような状況になったときは、減額が一方的な損害になっていないかを確認しましょう。まずは自分が提出した見積書や、相手と結んだ契約書、メールやチャットのやり取りなど、お互いにその金額で合意したことを示す証拠を確認することが重要です。
参考:公正取引委員会|フリーランス法がわかる特設サイト 7つの禁止行為 2.報酬の減額
支払期日までに報酬が支払われないケース
フリーランスにとって報酬が期日までに支払われない支払遅延は、事業の継続にも影響しかねない重大な問題です。買いたたきは報酬額が不当に低いことを指しますが、支払遅延は、合意した報酬が期日までに支払われないことを指します。
フリーランス法では、仕事を依頼した場合の支払い期限について、成果物を受け取った日から数えて60日以内のできるだけ短い期間で定め、その日までに支払わなければならないと義務付けています。
仮にフリーランス側からの請求書の提出が遅れたとしても、発注者はあらかじめ決めた支払期日までにお金を支払う必要があります。請求書が届かないから支払えないという主張は原則認められません。もし報酬が支払われないときは、契約書・注文書・請求書・納品証明書など、仕事が完了した日付と支払い期日を証明できる書類を確認しましょう。
参考:公正取引委員会|フリーランス法がわかる特設サイト 期日における報酬支払義務
無償で追加修正ややり直しを求められるケース
納品したものに対して、フリーランス側に責任がないのにもかかわらず、無償で追加の修正や、大幅な作り直しを求められるケースがあります。これは買いたたきではなく、フリーランス法で禁止されている不当な給付内容の変更や、不当なやり直しに該当します。
例えば、Webサイトのデザインを当初の指示通りに制作したにもかかわらず、発注者の都合で別のデザインへの作り直しを求められ、その費用を発注者が負担しないケースがこれにあたります。
フリーランス法では、フリーランス側に責任がないのに、一方的に仕事の取り消しや内容の変更をしたり、無償でやり直しをさせたりして不利益を与えることは禁止されています。
参考:公正取引委員会|「Q&A」Q82
買いたたきかもと思ったときに確認すること
請け負っている仕事が買いたたきかもしれないと感じたときは、まずは落ち着いて事実と書類を集め、客観的に確認することが大切です。
契約内容と発注条件を確認する
買いたたきが疑われる場合は、まず契約内容と条件をしっかりと確認しましょう。このポイントについて、確認内容・証拠・契約書がない場合の3つに分けて解説します。
確認すること
確認する内容は、報酬額・仕事の範囲・納期・やり直しの回数・報酬が支払われる日などです。これらは書面やメールで約束した内容です。口頭での約束であっても、メールやチャットでやり取りが残っていれば証拠になります。特に、契約書に金額について明確な記載があれば、契約後の一方的な金額変更や減額に対抗する強い根拠になります。
証拠として残すもの
注文書・見積書・請求書・納品物・メールやチャットの履歴・作業記録・やり直しの指示などは、後で窓口や弁護士に相談する際にとても重要な証拠になります。できればPDFで保存したり、パソコンの画面写真を残したりしておきましょう。
契約書がない場合
契約書がない場合は、これまでのやり取りを日付順に整理してください。相手の指示や、お互いが納得していたことがわかるチャットなどの履歴を集めることで、合意があったことを証明できます。
相場や過去の取引価格と比較する
買いたたきにあたるかどうかを判断するには、その仕事の相場や過去の取引価格と比較することが大切です。ここでは、比べるポイント・実際のやり方・気をつけることの3つを解説します。
比べるポイント
同じような仕事の一般的な相場、自分が過去に受けた同様の仕事の単価、他社にも見積もりを聞いた結果、実際に作業にかかった時間などと比較します。フリーランスの報酬額は個人の技術や経験で変動するため、単純な比較はできません。しかし、実際に働いた時間と相場を照らし合わせることで、金額が著しく低いかどうかを判断しやすくなります。
実際のやり方
自分が過去に行った同種の仕事の平均金額や、実際に作業した時間から、時給がいくらになるかを計算してみます。ネットにあるフリーランス向けの相場表なども参考にしながら、自分の技術レベルに合わせて考えてみましょう。
気をつけること
発注側が提示する相場と、あなたが考える相場が異なる場合もあります。そのため、同業種や同規模の仕事の例をいくつか集めることで、より正確に判断できるようになります。
参考:公正取引委員会|委託事業者の禁止行為 買いたたき(第1項第5号)
価格交渉の経緯を残す
発注側企業との価格交渉の経緯を残すことは、トラブル防止と自身の立場を守るために重要です。
口頭で話した場合も、決定内容をメールにまとめて送り、合意の証拠を残しましょう。記録には、提示された金額・日時・発言者、交渉理由(作業内容の認識、納期短縮、追加作業の有無など)、相手の返事などを詳細に残します。証拠にはチャット画面の写真やメールをPDF化して保存し、パソコンやクラウドなど複数箇所にバックアップを取っておくとよいでしょう。
交渉の際は、作業内容やコストの見積書、過去の実績など客観的な根拠を示すことが大切です。相手が理由なく一方的に金額を決める場合は、その事実も記録に残してください。
買いたたきの相談先
買いたたきは報酬に直接かかわるトラブルです。泣き寝入りにならないよう、また問題が大きくなる前に対処できるように、相談できる窓口を早めに知っておくことが有効です。
フリーランス・トラブル110番に相談する
フリーランス・トラブル110番は厚生労働省の委託事業として運営され、弁護士が相談に応じる相談窓口で、弁護士などの専門家に無料で相談できます。
報酬未払い、契約の曖昧さ、ハラスメントなど、さまざまなトラブルを匿名で相談できます。費用をかけずに法律に基づいたアドバイスが受けられ、今後取るべき具体的な行動も整理してもらえます。より効果的な相談のため、契約書、見積書、請求書、やり取りの記録などの書類を事前に用意しておくと良いでしょう。
参考:第二東京弁護士会|フリーランス・トラブル110番
公正取引委員会や中小企業庁へ情報提供する
発注側に買いたたきなどの疑わしい取引があるとき、国の機関である公正取引委員会や中小企業庁のウェブサイトにある専用フォームから情報を送ることができます。
個別のトラブルを直接解決してくれるわけではありませんが、国が調査や監視を行うための重要な情報となります。同じような被害が複数集まることで、企業への指導や新たなルール作りにつながる可能性があります。効果を高めるため、被害の証拠を整理して提出しましょう。また、地域の中小企業支援窓口、消費生活センター、弁護士会の法律相談など、他の相談先も状況に合わせて活用することをおすすめします。
参考:公正取引委員会|相談・情報提供ページ
まとめ
買いたたきとは、フリーランスが発注側の企業から、一般的な相場よりも著しく低い報酬を一方的に決められる行為を指します。しかし、安い案件だからといってすぐに違法だと決めつけるのではなく、事実と証拠を積み上げて冷静に対応することが大切です。
もし買いたたきなどの法律違反が疑われる場合は、契約内容や交渉の経緯などの証拠を集めて専門の窓口に相談してください。これらを事前に整理し相談することが、泣き寝入りを防ぎ、安心して仕事を続けるための近道となります。本稿が、健全な取引環境を守るための一助となれば幸いです。












