開業届の書き方は?初心者にもわかりやすく解説


はじめに
- 開業届とは、個人事業主が事業を始めた際に、所轄する納税地の税務署へ提出する届出書
- 記入の前に、マイナンバーカードや本人確認書類などを準備する
- 開業届に記載する住所は、納税地住所とその他の住所がある
- 開業届の提出は、開業から1か月以内のため注意が必要
- 開業に伴う届出書や、給与の支払状況に応じた源泉所得税の納期など、関連する提出書類の確認が必要
個人事業主が新たに事業を始めたとき、税務署に開業届を提出しなければなりません。どのような内容を記入するのか、必要書類は何か、さらに官庁への提出書類にありがちな独特の表現などに戸惑うことも多いでしょう。この記事では、開業届の書き方を、見本とともにわかりやすく解説します。
開業届とは
開業届とは、個人事業を開業した際、所轄する税務署に提出する届出書です。これにより納税や申告の意思を正式に示します。所得税法第229条において開業届の提出は義務付けられています。ただし、事業所得を得ていないフリーランスや副業の場合はこの限りではありません。
参考:国税庁|No.2090 新たに事業を始めたときの届出など
開業届の入手方法と準備するもの
開業届の入手方法と、開業届の記入前に準備しておくものを解説します。この章では、基本的な準備について紹介しますが、記事後半の節税対策や従業員の有無など、開業届の記載内容によって他に提出する書類等もあります。最後までお読みいただくことで、開業に必要な手続をスムーズに進められるでしょう。
開業届の入手方法
開業届の入手方法は、最寄りの税務署に直接もらいに行く、もしくは、国税庁のホームページからダウンロードして印刷できます。手書きのほかにネット申請できるe-Taxなどを利用してWeb上で作成することも可能です。
参考:国税庁|個人事業の開業・廃業等届出書・控え
参考:国税庁|A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続
入手前に準備しておいたほうがよいもの
開業届には、マイナンバーの記入が必要になるため、マイナンバーカードなど個人番号が確認できるものが必須です。また、住所の番地や丁目などを略さずに記入するためには、本人確認書類があると便利でしょう。さらに、事業所の住所や屋号、職業などの基本情報を整理しておくとスムーズに書き進められます。
開業届の見本と書き方
開業届は正式名称を「個人事業の開業・廃業等届出書」といい各項目に正確な情報を記入することが求められます。開業届の書き方を、以下の書き方例(見本)にそって解説します。

※クリックで画像を拡大できます
①提出先税務署名と提出日
所轄する(納税地の税務署)税務署名と提出日を記入します。提出日は和暦・西暦どちらでも構いません。ただし、提出期限が開業から1か月以内なので開業日からの期限を守ることが重要です。
納税地の税務署は国税庁のホームページから確認できます。
参考:国税庁|国税局・税務署を調べる
②-1納税地
納税地とは、個人事業主の場合、原則として自宅のある「住所地」となります。住民票に記載された住所ということです。ただし、納税地の特例として、店舗や事務所のある住所「事業所等」や「居所地」を納税地にすることも可能です。税務署からのお知らせは、この納税地の住所に届きますので正確に記入しましょう。
【住所地・居所地・事業所等の違い】
| 住所地 | 住民票に記載の住所 |
|---|---|
| 居所地 | 一時的に居住している住所で、ここで生活が営まれている客観的な根拠が必要 |
| 事業所等 | 店舗や事務所等の事業所のある住所 |
参考:国税庁|No.2029 確定申告書の提出先(納税地)
②-2.上記以外の住所地・事業所等
上記以外とは、たとえば納税地に事業所等や居所地を選んだ場合、こちらには自宅の住所地を記入します。また、海外在住で日本国内に事務所等を開設して事業を開始する場合、納税地は日本国内の店舗あるいは事務所等の住所となり、こちらに自宅住所地を記入します。この項目は、事業運営の実態に合わせて正確に記入しましょう。
【納税地別の記入例】
| 例1:納税地を自宅にしたが、他に店舗がある | 2-1納税地:自宅住所(住所地) 2-2上記以外の住所地、事業所等:店舗のある住所 |
| 例2:納税地を事務所の住所にしたい | 2-1納税地:事業所等の住所 2-2上記以外の住所地、事業所等:自宅住所(住所地) |
| 例3:自宅と事務所を兼ねている | 2-1納税地:自宅住所(住所地) 2-2上記以外の住所地、事業所等:記載不要 |
| 例4:海外在住で、日本国内に事務所がある | 2-1納税地:事業所等の住所(日本国内の住所) 2-2上記以外の住所地、事業所等:自宅住所(住所地) |
③氏名/生年月日
事業を開始した本人の氏名と生年月日を記入します。氏名にはふりがなを忘れずに記入し、生年月日の和暦は、あてはまる箇所にチェックを入れましょう。
④個人番号
マイナンバーカードに記載された12桁の個人番号を記入します。この番号は、税務上の識別に使用されるため、正確な記入が必要です。間違いの無いように注意しましょう。
⑤職業
職業は誰が見てもわかるような職業名を記入します。記載にルールはありませんが、業種によっては個人事業税(地方税)の課税対象や、税率が変わる可能性もあるため注意が必要です。
個人事業税に関わる個人事業等の開始申告書は地方によって提出期限が異なりますので、お住まいの都道府県税事務所に確認しましょう。
⑥屋号
屋号がある場合に記入します。屋号を設定することで、屋号つき銀行口座の開設が可能です。さらに、事業の内容やイメージを明確に伝えることができ、ブランディングにもつながります。商標登録されていないか確認し、屋号を決めるのもよいでしょう。
⑦届出の区分
「開業」の項目にチェックを入れます。廃業の場合も同じ書式を使うので、記入漏れの無いように気を付けましょう。また、事業を引き継いで開業する場合は、元の事業者の住所、氏名を記入します。
⑧所得の種類
所得の種類は、「不動産所得」「山林所得」「事業(農業)所得」のうち、該当する所得にチェックを入れます。副業の場合も、その副業で得る所得の種類にチェックを入れましょう。
【所得とその内容】
| 事業(農業)所得 | 農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得 |
|---|---|
| 不動産所得 | 土地や建物など不動産の貸付けや、借地権など不動産に関する権利の設定および貸付け、船舶や航空機の貸付けなどから生ずる所得 |
| 山林所得 | 山林を伐採して譲渡や、立木のままで譲渡することによって生ずる所得 |
⑨開業・廃業等日
開業日には特に決まったルールがないため、事務所の開設日や店舗のオープン日、または仕入れや広告制作などの準備を始めた日などを開業日として設定することがあります。ただし、この開業日から1か月以内に開業届の提出が必要なので計画的に準備をしましょう。
⑩事業所等を新増設、移転、廃止した場合/廃業の事由が法人の設立に伴うものである場合
基本的に新規開業の場合は、記入する必要はありません。
⑪開業・廃業に伴う届出書の提出の有無
開業に伴って、「青色申告承認申請書」や「消費税の課税事業者選択届出書」を提出する場合は、それぞれの段の「有」にチェックを入れます。
開業した年から、青色申告や課税事業者を希望する場合は、「青色申告承認申請書」や「課税事業者選択届出書」を一緒に提出できます。なお、インボイス制度に対応するため「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出しているなら、課税事業者選択届出書を提出しなくても課税事業者になることが可能なため、「無」にチェックを入れましょう。
【同時提出を検討したほうがよい書類】
- 青色事業専従者の給与に関する届出・変更届出書:
青色申告では、専従者給与を経費計上できるため、専従者があり青色申告を受ける際には一緒に提出できます
- 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書:
給与等の支払事務を取り扱う事務所等を開設・移転・廃止した場合に提出する届出書です
開業時に事務所等を開設した場合は開業届と一緒に提出できます
参考:国税庁|D1-4 消費税課税事業者選択届出手続
⑫事業の概要
職業欄に記載した事業の内容を詳しく記入します。たとえば、エンジニアなら、「システムの開発、設計、保守点検」など、飲食業なら、「ラーメン等の調理、販売」などのように、実際に行う業務内容を具体的に記入しましょう。
⑬給与等の支払の状況
家族「専従者」や家族以外の従業員「使用人」を雇用する場合、それぞれの人数と給与の支払方法(例:日給・月給)および、源泉徴収の有無を記入します。給与の支払が生じる場合、基本的に源泉徴収を行う必要があるため「有」にチェックを入れます。
【給与等の支払状況記入時のポイント】
| 従業員数 | 専従者:生計を一にする家族の従業員 使用人:家族以外で雇用した従業員 それぞれの人数と合計人数を記入する |
| 給与の定め方 | 「時給」 「日給」 「月給」 「月給+ボーナス」などの給与の支払方法を記入する |
| 税額の有無 | 源泉徴収する場合は、「有」にチェック しない場合は「無」にチェック ※給与の支払が生ずる場合、基本的には源泉徴収を行うため「有」になります。 |
⑭源泉所得税の納期の特例の承認に関する申告書の提出の有無
源泉所得税は、原則として徴収した日の翌月10日が納期です。しかし、給与の支給人員が常時10人未満であれば、年2回にまとめて納める特例を申請できます。これを申請する場合は「有」にチェックをして、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申告書」も一緒に提出します。
参考:国税庁|No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは
⑮給与支払を開始する年月日
給与の支払が生ずる場合に記入します。新たに給与支払いを始める場合はその予定年月日を、すでに支払っている場合は開始した年月日を記入しましょう。
ここで注意することは、支払開始から源泉所得税の納期の特例(⑭参照)を受けたい場合は、給与の支払開始日の前月末までに申請書を提出する必要があります。
すでに給与を支払っている場合は、申請書を提出した翌月から特例の適用となります。これ以前に支払った給与に関しては、通常の納期限までに源泉所得税を納付しなければなりません。
【給与の支払状況別、記入例と注意点】
| 給与の支払予定がある:支払い始める年月日を記入する |
| すでに給与を支払っている:支払を開始した年月日を記入する |
| ※)開業当初から源泉所得税の納期の特例(⑭記載)を受けたい場合は、支払開始月の前月末までに、
開業届と共に申告書を提出する必要がある ※)すでに給与を支払っている場合は、申告書を提出した翌月からの適用になる |
まとめ
開業届に限らず、官公庁への提出書類の文言は、難しい表現や誤解を生じやすい表現もあり、戸惑うことも多いでしょう。この記事では、開業届の記入における注意点と文言の意味についてわかりやすく解説しました。開業届の記入の際に、お役立ていただければ幸いです。











