開業届の見逃せないデメリット|出す出さないの判断基準も


はじめに
- 開業届は1か月以内に提出する必要がある
- 働き方によって家族の保険や税金の計算の仕方が変わる
- 提出しなければ補助金や税制の優遇措置・屋号口座が使えない
- 提出すると利点がある分、帳簿管理や確定申告の負担も増える
これから独立を考えている方は、まず開業届を出すと考える方は多いことでしょう。しかし、開業届の提出は事業を始めるうえでは大切なステップですが、実は利点ばかりではありません。提出後に後悔しないために、事前に提出するデメリットを確認しておきましょう。
開業届とは
開業届とは、個人で事業を始めたことを税務署へ知らせるための書類です。開業届を提出することで、個人事業主として認められ、青色申告や税制上の優遇措置を受けられるようになります。これから事業を本格化させる場合にも関わる重要な手続きです。
開業日から1か月以内に提出しよう
開業届は、事業を始めた日から1か月以内に税務署へ提出することが原則です。しかし、開業届の提出が遅れてしまっても罰則や罰金などはありません。青色申告の承認も併せて受けたい場合は、開業届と同時に期限内に手続きを済ませておくと安心でしょう。
開業届を提出するデメリット
開業届を税務署に提出すると、個人事業主として正式に活動できるようになります。
しかし開業届を提出した分、義務も発生します。以下、提出前に知っておきたい代表的なデメリットを解説します。
- 記帳・帳簿保存義務が生じる
- 失業保険が受給できないことも
- 社保の扶養から外れる可能性も
記帳・帳簿保存義務が生じる
事業の収入や支出は記帳により記録し、領収書や請求書などは確定申告時まで保存しておくことが義務です。青色・白色を問わず、事業を行う人には記帳・帳簿等の保存制度が設けられています。会計ソフトを活用して適切に管理することが望ましいでしょう。
失業保険が受給できないことも
失業保険は、会社を辞めたあとに再就職までの生活を支えるための制度です。提出して事業を始めると、就職していない状態ではなく働き始めているとみなされるため、失業保険の受給資格が失われます。したがって、会社を辞めてすぐ独立をする場合は、基本手当を受けることはできません。開業届を出すかどうかは、今後の働き方を踏まえて判断することが重要です。
社保の扶養から外れる可能性も
一定以上の収入がある場合、家族の社会保険の扶養から外れてしまう可能性があります。もしも、扶養から外れてしまった場合には、国民健康保険や国民年金に加入し、自分で保険料を負担しなければなりません。扶養内で活動したい場合には、収入の見込み額にも注意が必要です。
開業届を提出しないデメリット
提出がなければ、個人事業主としての正式な扱いを受けられません。以下では、主なデメリットの3つを解説しています。
- 青色申告が利用できない
- 補助金や助成金の申請ができない
- 屋号名義の口座開設やクレジットカードが作れない
青色申告が利用できない
青色申告は、一定の条件を満たす個人事業主が利用できる税制上の優遇措置です。最大65万円の控除などが受けられます。しかし、青色申告を利用するためには、まず税務署に開業届を届け出る必要があります。提出していない場合、税務署には事業開始の記録がありません。そのため、開業届は青色申告を受けるための手続きであり、提出して初めて税制上の優遇措置が利用できるようになるのです。
補助金や助成金の申請ができない
補助金や助成金は、事業を行っている個人・法人を支援する制度です。申請時には、事業の開始や継続を証明する開業届が必要となります。未提出の場合、事業者として認められず申請ができません。そのため、開業届は補助金や助成金を受けるための手続きのひとつとなっています。
屋号名義の口座開設やクレジットカードが作れない
屋号名義の銀行口座開設や法人のクレジットカードの申請は、開業届が未提出の場合基本的に申請することができません。そのため、事業に関する収入や支出の管理をすべて個人の口座やクレジットカードで行う必要があります。よって、個人口座と混同してしまうと整理の手間が増えてしまい、会計管理の効率が下がってしまいます。
開業届を出した方が良い人・出さなくても良い人とは?
開業届を出すかどうかについては、事業の形態や収入の状況、そしてこれからどのように事業を展開していきたいのかによって異なります。提出することで、税制面での優遇措置が得られますが、その一方で、これまで解説してきた義務も生じ負担も増えます。出した方が良い人・出さなくても良い人に分けて整理します。
開業届を出した方が良い人とは?
これから事業で収入を安定的に得る予定のある人や、青色申告での控除や優遇措置を利用したい方は、開業届を提出した方が良いでしょう。また、屋号名義で銀行口座やクレジットカードを作成したい場合も開業届が必要です。そして、補助金・助成金の申請では、開業の事実を示す書類(開業届の控など)の提出を求められる場合があるため、事前に届出を済ませておくと安心です。
開業届を出さなくても良い人とは?
個人で事業を始める場合、原則として税務署に開業届を提出する必要があります。しかし、収入が少額で一時的な場合は、開業届の提出を見送る選択肢もあります。自分の状況や目的に応じて、制度の内容を理解したうえで判断しましょう。
開業届を提出するタイミングとは
提出のタイミングは、一人ひとりのケースで異なりますが、主に以下の4つのケースが開業届を提出するタイミングと言えます。
- 開業日は自由に設定可能だが、開業後1か月以内に提出する
- 所得が48万円を超えたら
- 年内に事業所得が発生したら
- 独立・退職するとき
開業日は自由に設定可能だが、開業後1か月以内に提出する
開業日は自由に設定可能です。ただし、税務署には開業から1か月以内に開業届を提出する必要があります。この期限を守ることで、青色申告の申請や控除、屋号名義の口座開設など、税務上の手続きがスムーズに進められるでしょう。提出が遅れると、青色申告の適用開始が遅れるほか、控除や補助金の申請タイミングにも影響が出る場合があります。したがって、開業日が決まったら、速やかに開業届を提出することが望ましいでしょう。
所得が48万円を超えたら
年間の事業所得が48万円を超えると、税務上の課税対象として扱われるため、確定申告が必要になります。この際、個人事業主として正式に登録されていないと、確定申告時に青色申告の控除や優遇措置が受けられません。そのため、所得が基準を超えたら税務署に開業届を提出するタイミングと言えます。
年内に事業所得が発生したら
年内に事業所得が発生する見込みなら、事業開始等の日から1か月以内を目安に開業届を速やかに提出しましょう。
あわせて所得税の青色申告承認申請書を、原則その年の3/15まで(その年の1/16以後に開始した場合は開始日から2か月以内)に出しておくと、初年度から青色申告を受けられる可能性が高まります。これらの期限を過ぎると当年の青色適用はできず、翌年以降の適用になるのが一般的です。
独立・退職するとき
会社を退職して個人事業主として独立する場合は、退職後が開業届を提出するタイミングと言えます。これにより、個人事業主として正式に活動を開始でき、青色申告の控除や税務上の優遇措置を活用できます。あわせて、屋号名義の銀行口座やクレジットカードを開設すると、事業資金の管理がスムーズです。さらに、帳簿の作成や経費の整理方法を整えておくことで、申告時のトラブルも防ぐことができます。独立後は、優先順位を意識して、効率的に手続きを進めることが重要になるでしょう。
まとめ
税務署に開業届を提出すると、青色申告で税務上の優遇措置が受けられますが、帳簿の記帳や確定申告の義務が生じます。一方、開業届を提出しない場合は、青色申告による税制上の優遇措置は受けられません。また、屋号名義の口座開設や補助金の申請などの手続きがスムーズに行えなくなるでしょう。
どちらにも利点と負担があるため自分の収入や働き方、今後の計画を踏まえて、よく考えて行動することが重要です。












