空間コンピューティングとは?/基礎知識・将来・課題など


はじめに
- 空間コンピューティングとは物理空間とデジタル世界を融合させる技術・概念
- 物理空間とデジタル情報を結びつけ直感的で没入感のある体験を可能にすることが特徴
- Apple独自の空間コンピューティング構成要素はウィンドウ・ボリューム・スペースの3つ
- 空間コンピューティングは今後数年間で私たちの生活やビジネスを劇的に変革すると予測されている
近年、空間コンピューティング(Spatial Computing)は私たちの社会に大きな変革をもたらしています。すでにさまざまな業界で導入が始まっていますが、一般ユーザへの浸透や標準化はまだこれからという段階です。この機会に、基礎知識や将来・課題などについての知識を学んでおくのはいかがでしょうか。
空間コンピューティングとは?

空間コンピューティングは、現実空間とデジル空間を融合させ、まるでデジタル情報が現実世界に存在するかのように体験・操作を可能とする技術のことです。2003年にアメリカのサイモン・グリーンウォルド氏によって「機械が実際のオブジェクトや空間への参照を保持し、操作する機械との人間の相互作用」と定義されました(参考元:サイモン・グリーンウォルド「Spatial Computing」)。以下のようなテクノロジーを組み合わせています。
- AR(拡張現実)
- VR(仮想現実)
- MR(複合現実)
- ハンドトラッキング、アイトラッキング、音声認識
- 3Dモデリング
AR・VRと空間コンピューティングの違い
AR(拡張現実)は、現実の景色を見ながら、その上にデジタル情報を重ねて表示する技術です。一方、VR(仮想現実)は、現実の景色をすべて覆い隠し、まったく別の仮想空間だけを見せる技術です。
AR・VR | 空間コンピューティング | |
---|---|---|
役割 | 特定体験実現のための技術 | 包括的な概念・技術 |
範囲 | 一部(表示・体験など) | 全体(認識、操作、統合、インタラクション全般など) |
関係 | 空間コンピューティングの応用形態 | 包括的な技術体系 |
空間コンピューティングの特徴
空間コンピューティングの特徴は大きく以下の4つになります。生活・仕事・学習などのさまざまな場面で活用される可能性があります。
- 二次元コンピューティングから三次元への進化
現実空間やバーチャル空間全体をコンテンツの表示などに活用する
- コンピュータの操作方法の変化
現より身体的で直感的なコンピュータ操作体験を実現させる
- デジタルと現実の融合への対応
現デジタルオブジェクトを現実空間に重ねて表示、物理空間そのものをデジタルで補完・拡張する、などの要求に答える
- 空間情報の取得と利用・活用
現空間コンピューティング型デバイスを活用して、ユーザのデータを詳細に取得・分析し効率化をはかる
空間コンピューティングの構成

Appleの空間コンピューティング体験では、「ウィンドウ」「ボリューム」「スペース」といった概念が導入されており、主要な構成要素として位置づけられています。3つそれぞれについて解説します。
1 ウィンドウ
1つ目の構成要素は「ウィンドウ(Windows)」です。
見た目は従来のPCで使われていたウィンドウとほとんど同じ、平面的な表示領域です。
ユーザは表示サイズや配置を自由に調整できます。また、複数のウィンドウを同時に操作することも可能です。
2 ボリューム
2つ目の構成要素は「ボリューム(Volumes)」です。
立体的な体積を持った表示領域で、3Dオブジェクトや相互作用的なコンテンツを空間内に配置するための要素です。ユーザはこれらのボリュームを360度から観察・操作でき、より没入感のある体験を提供します。
3 スペース
3つ目の構成要素は「スペース(Spaces)」です。
スペースはユーザの視界全体を領域とし、「ウィンドウ」「ボリューム」も含まれます。現実世界とデジタルコンテンツをシームレスに融合させ、自由にカスタマイズされた作業環境を構築可能です。
空間コンピューティングで可能になること
空間コンピューティングは現実空間とデジタル情報をシームレスに融合させ、直感的な操作を可能にする技術です。現実世界を操作可能なデータ空間に変え、デバイスの画面に閉じ込められていたデジタル体験を空間全体へと拡張することが可能です。以下のようなことができるようになります。
- 直感的な操作
現手のジェスチャー・視線・音声認識などを使い、デジタルオブジェクトを直感的に操作可能
- 2Dディスプレイからの解放
現従来の小さな画面に縛られることなく、目の前の空間全体をディスプレイとして利用可能
- 現実空間への情報重ね合わせ
現実の風景にデジタル情報を重ねて表示可能
- 空間共有
現コンテンツなどの共有をした場合、複数人で同じ情報をリアルタイムで空間共有・共同作業をすることが可能
多様な分野での利用
空間コンピューティングは、その汎用性の高さから非常に幅広い分野での活用が想定されています。4つの分野での利用について解説します。
1 教育分野での応用
教育現場での空間コンピューティング活用で「見て・触れて・動かして学ぶ」体験が可能になり、学習の理解度・定着率向上に貢献します。以下に利用例を挙げます。
- 歴史・科学・工学などの立体的な教材のAR表示
- 安全訓練や緊急対応トレーニング(災害、火災など)
- 職業教育におけるシミュレーション型実習
- 言語・文化教育でのインタラクティブ環境体験
2 ビジネス分野での応用
ビジネスでの空間コンピューティング活用は、空間上での情報共有・製品表示・業務効率化を進め、新しい働き方・営業スタイルを可能とします。以下に利用例を挙げます。
- 現場作業員へのARナビゲーションや作業手順表示
- リモートワークの環境を仮想オフィスとして提供
- 製品デザインやプロトタイプの3Dモデリングを利用しての作成
- 家具やメイクなどのAR試着・試し置き
- ARを使ったプロモーション演出やクーポン表示
- ECサイトでの仮想商品展示室
3 医療分野での応用
医療現場での空間コンピューティング活用は、人体の内部構造や手術計画を空間上で可視化・共有することが可能で、安全性・精度を大幅に向上させます。以下に利用例を挙げます。
- 手術支援AR(臓器の3D表示・位置ガイド)
- 医学生向けの仮想解剖トレーニング
- リハビリ支援の動作トラッキングとフィードバック
- 遠隔診療や支援における空間的情報共有
4. エンターテインメント分野での応用
エンターテインメントでの空間コンピューティング活用は、空間全体を演出装置として使い従来にない没入体験を創出します。また、ユーザが自宅にいながら臨場感あふれる体験を楽しむ・現実の空間と連動した新しいタイプのゲーム体験も可能となります。以下に利用例を挙げます。
- 空間を利用したMR/VRゲーム
- ライブイベントでの仮想演出(ホログラムやARエフェクト)
- ユーザの部屋を使った没入型AR体験
- バーチャルタレントやメタバースライブ
空間コンピューティングのこれから
空間コンピューティングは、今後の社会・産業・日常生活を大きく変える次世代の基盤技術として注目されています。今後の展望としては、以下の点が挙げられます。
- デバイスの進化と普及
軽量化・小型化・性能向上・低価格化・汎用化
- ユーザーインターフェースの革新
より直感的な操作・AIアシスタントとの融合
- インフラストラクチャの整備
5G/6Gネットワークの普及・IoTデバイスなどの進化・現実世界をデジタル空間に再現するデジタルツイン技術の進化
- アプリケーションとコンテンツの充実
キラーアプリの登場・対応したコンテンツやアプリケーションを開発するクリエイターの増加
空間コンピューティングの課題
空間コンピューティングは現実空間とデジタル空間を融合させ直感的で自然な操作などを可能にする画期的な技術ですが、その普及と発展にはいくつかの課題が存在します。以下に4つを挙げます。
- コストと導入障壁
初期導入コストの高さ・投資対効果証明の難しさ(導入に踏み切りにくい)など
- 高度な技術と専門知識の必要性
空間コンピューティング専門人材の不足がスムーズな導入を妨げる可能性など
- セキュリティとプライバシーのリスク
個人情報の漏洩リスク・データの適切な管理と活用など
- インフラ環境の整備とメンテナンス負荷
高性能なインフラ環境の整備と継続的なメンテナンスが必要など
まとめ
ここまで「空間コンピューティングとは?/基礎知識・将来・課題など」というテーマで解説してきました。
空間コンピューティングとは、現実空間とデジタル空間を融合させ、まるでデジタル情報が現実世界に存在するかのように体験・操作を可能とする技術のことです。
空間コンピューティングは次のコンピューティングパラダイムとして注目されており、今後数年間で私たちの生活やビジネスを劇的に変革すると予測され、その応用範囲は無限に広がっていくでしょう。
皆さんも、この記事を読んで空間コンピューティングについての知識を深めるきっかけにしてみてください。