偽装フリーランスの問題点とは?労働者との違いや、リスクについて解説


はじめに
- 偽装フリーランスとは、フリーランスでありながら企業勤めの人と同様の条件で働く状態のこと
- 勤務時間や業務の手順などに企業から詳細な指定があり、自由な働き方ができない
- 施行されたフリーランス新法と、関連するガイドラインを確認することが大切
- もしもの時はフリーランス・トラブル110番で弁護士に相談ができる
- 特定フリーランス事業に該当すれば、労災保険への特別加入が可能になった
偽装フリーランスとは?
偽装フリーランスとは、契約上はフリーランスの業務請負でありながら、企業に勤める労働者と同様の条件で働く状態のことです。就労実態は雇用契約を交わす労働者とほぼ同じにもかかわらず、フリーランスであるかのように表面上を偽装することから、こうした呼び名が付きました。
また、企業に雇用されている労働者と変わりない条件で業務委託を請け負うことを、偽装請負といいます。偽装請負をして企業の指示で動かざるを得ない状況に陥ってしまうと、フリーランスのメリットである自由な働き方が難しくなるだけでなく、さまざまなリスクを負うことになります。
フリーランスとは?
フリーランスとは、特定の企業に所属せず、案件ごとに契約を交わして業務を請け負う働き方を指します。勤務時間や勤務地、仕事量を自分で決められる、働き方の自由度が高いところがメリットです。
ただし、フリーランスは自分で仕事を取ってくる必要があります。そのため、安定して仕事を請け負えるようになるまでは会社員に比べて収入が不安定になる、労働基準法の適用外となるといったデメリットに注意が必要です。仕事に関する知識やスキルのほか、コミュニケーション能力やスケジュール管理能力なども求められます。
個人事業主とは?
個人事業主とは、税務署に開業届を提出し、法人を設立せずに個人で事業を営む人のことです。開業届は事業を始める際に提出が義務付けられていますが、未提出でも罰則はありません。
フリーランスは開業届提出の有無に関わらず、企業に所属せず業務を請け負う働き方のことを指すため、個人事業主でありながらフリーランスでもあるという人もいます。
労働者とは?
労働者とは、企業と雇用契約を結び勤務する人を指します。正社員のみではなく、有期契約社員や派遣社員、パート、アルバイトも労働者です。フリーランスとの最大の違いは、企業に雇用されて賃金を得ており、労働法の保護対象である点です。
労働者は業務に関する事由で怪我や病気をした際に労災保障を受けられ、労働基準法に基づいて労働時間の規定があるなど複数の法律で権利が守られています。
偽装フリーランスの問題点は?
偽装フリーランスの大きな問題点は、就労実態が雇用契約とほぼ変わらない状態でありながら、表面上はフリーランスの業務委託契約であるところにあります。働き方が制限されるため、フリーランスのメリットが得られない、またはメリットに感じられないという状況・状態に陥りやすくなることが問題点です。
詳しい事例を見ていきましょう。
勤務時間などを細かく指定され、自由度が低い
勤務する時間や仕事量を、自分の裁量で自由に決められるのがフリーランスのメリットです。しかし偽装フリーランスの状態であった場合、企業の指示に従って業務に取り掛からなければならず、自由に仕事を進めることができません。
勤務時間や業務の手順に詳細な指定があり、働き方が企業に所属する労働者と変わりないと感じる場合は、偽装フリーランスになっている可能性を疑った方がいいかもしれません。
業務上の事由による負傷でも労災が下りない可能性がある
労働者が勤務に関する事由で負傷したとき、労災を利用して治療費や休業補償の給付を受けられます。そのほかにも怪我や病気で勤務できない間、不当に解雇してはならないと法律で保障されています。フリーランスは労働基準法における”労働者”にあたらないため、保障の対象外です。
ただし、フリーランスであっても、特定フリーランス事業に該当するフリーランスの人は、業種・職種を問わず労災保険に特別加入することが可能になりました。加入していない場合は、労災の補償が受けられません。
具体的な対象者や加入方法については後述します。
労働時間や残業代の支払いなどが労働基準法で守られない
「労働者とは?」の項目で解説したように、雇用契約を結んでいる労働者は不当な扱いを受けないように法律で守られています。しかし、フリーランスは企業と雇用契約を結んでいないため原則として”労働者”に該当せず、労働基準法による保障を受けられません。たとえ実働時間を計算した結果、報酬が都道府県の最低賃金を下回っていたとしても、フリーランスは保障の対象外です。
フリーランスのメリットである自由な働き方が制限され、労働基準法の対象外のために保障が適用されないという、弱い立場に置かれてしまうことが偽装フリーランスの問題点です。
偽装フリーランスにならないために
フリーランスとして駆け出しの時期は、仕事を確保するために多少不利な条件であっても業務を請け負ってしまうことがあるかもしれません。その場合、気付かないうちに偽装フリーランスとして働いてしまう危険性があります。
偽装フリーランスにならないためには、契約時に以下のような条件が盛り込まれていないか、チェックすることが大切です。
- 勤務時間や勤務場所について詳細な指定がある
- 業務の手順や進め方について詳細な指定がある
- 労務・勤怠管理や出社が求められている
- 就業規則や服務規程などの遵守が求められている
- 取引条件の明示項目が足りない(フリーランス新法に沿った明示がされていない)
契約時にはわからなくても、業務を始めてから違和感を覚える可能性もあります。フリーランスとして契約したはずが、勤務時間や業務の進め方を細かく指定されたり、就業規則などの遵守を求められたりする場合は要注意です。
以下で解説するフリーランス新法をはじめとした権利を知り、双方納得のいく業務委託契約を結べるよう努めましょう。
政府の対応
偽装フリーランスに関するトラブルが相次いでいるなか、政府はどのような対策を講じているのでしょうか。
代表的な動きを3つ、ご紹介します。
フリーランス新法の施行
フリーランス新法とは「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」の通称です。2024年11月1日に施行されました。この法律は、業務委託を受けるフリーランスと企業などの発注事業者との間の取引適正化、およびフリーランスの就業環境の整備を図ることを目的としています。
また、発注事業者が満たす要件に応じて、フリーランスに対する義務の項目と具体的な内容が、ガイドラインとして制定されました。
- 契約時に業務内容や報酬額を書面あるいはメールなどで明示すること
- 報酬支払期日の設定・期日内の支払
- もし違反があれば国の行政機関へ申告ができる
不平等な契約を結んでしまい、偽装フリーランスとなり泣き寝入りしないためにも、どういった内容が盛り込まれているのか目を通しておきましょう。
参考:厚生労働省|フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ
参考:中小企業庁|フリーランスの取引に関する新しい法律
フリーランス・トラブル110番の設置
フリーランス・トラブル110番は、フリーランスをはじめとする企業との雇用関係によらない働き方をしている人が、弁護士に無料で相談できるフリーダイヤルです。
第二東京弁護士会が運営をしており、内閣官房などフリーランスに関わる関連省庁と連携を行っています。
匿名での相談も可能で、弁護士にワンストップで悩みを打ち明けられます。自身が偽装フリーランスに該当するかどうか知りたい、契約先とのトラブルについて相談したいという方は利用を検討してみてはいかがでしょうか。
参考|フリーランス・トラブル110番【厚生労働省委託事業・第二東京弁護士会運営】
特定フリーランス事業の労災について
2024年11月1日から、特定フリーランス事業に該当するフリーランスの人は、業種・職種を問わず労災保険に特別加入することが可能になりました。加入することで、仕事中・通勤中のケガや病気、死亡に対する補償が受けられます。
特定フリーランス事業の対象は、以下のように定められています。
- フリーランスが企業等から受けて行う「業務委託」が対象となります。
- 「業務委託」とは、企業等がその事業のために他の事業者に、物品の製造、情報成果物の作成(プログラミング等)、役務の提供(通訳等)を委託することをいいます。
- つまり、フリーランスが企業等から業務委託を受けて行う「事業者間の委託取引」が対象となります。
- さらに、企業等から業務委託を受けて事業を行うフリーランスが、当該事業と同種の事業を消費者から委託を受けて行う場合のケガ等も補償の対象となります。
特別加入を希望する場合は、加入手続きを行ってくれる、特定フリーランス事業の特別加入団体に申し込む必要があります。居住地域に関係なく申し込むことが可能です。
詳細な団体名や所在地、問い合わせ先については、厚生労働省のサイトをご確認ください。
参考:厚生労働省|令和6年11月1日から「フリーランス」が労災保険の「特別加入」の対象となりました
まとめ
多様な働き方ができるフリーランスを魅力的に感じる方も多いでしょう。
しかし、偽装フリーランスとなってしまうリスクや、企業に雇用されている労働者とは異なる部分があることをきちんと認識しておく必要があります。
業務契約のトラブルやフリーランス新法といったフリーランスに関する問題や制度を知ったうえで、どのような働き方が自分に適しているのか考えましょう。













