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デザイン思考の特徴やメリットを、プロセスや事例と合わせて紹介

date2024年01月30日
デザイン思考の特徴やメリットを、プロセスや事例と合わせて紹介
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はじめに

近年、デザイナーがデザインを行う際に使用されるプロセスを体系化した「デザイン思考」という思考法が注目されています。グローバル企業で積極的に取り入れられており、他のさまざまな企業でもデザイン思考を取り入れる動きが広まっています。どのようにビジネスに活かしていけるのか、見ていきましょう。

デザイン思考とは?

デザイン思考という言葉が生まれたのは1980年代ですが、広く知られるようになったのは2005年、スタンフォード大学にd.school(正式名称:The Hasso Plattner Institute of Design)が創設されたことが起点と言われています。

デザイン思考とは、製品やサービスを使うユーザ視点に立ち、デザイナーが創作する際の考え方や手法を活用し、課題や潜在的ニーズを見つけ出すことで解決を図る思考プロセスのことです。ユーザに寄り添った視点から、ユーザにとって「さらに良いもの」「もっと便利なもの」を追求し問題解決を目指すことが、この思考法の大きな特徴と言えます。この特徴から、デザイン思考はビジネス上の課題解決において、新たなイノベーションを創出できる可能性がある、として注目されています。

他の思考法との違いは?

デザイン思考以外にも、さまざまな思考法があります。前述したデザイン思考の視点や特徴と、広く知られる4つの思考法では何が違うのか、見ていきましょう。

思考の起点特徴
デザイン思考ユーザのニーズ商品やサービス利用者の気持ちに寄り添って、課題や悩みを理解・解決する
論理的思考
(ロジカルシンキング)
物事の因果関係物事の筋道を明確にし、矛盾のないよう整理・分解しながら結論を導き出す
批判的思考
(クリティカルシンキング)
物事の因果関係 物事を客観的かつ多角的に分析・検証を行い、結論を導き出す
システム思考複数要素の影響・作用状況俯瞰視点からさまざまな要因のつながりと相互作用を理解して、変化を作り出す
アート思考自分の発想・欲求欲求や発想、課題そのものの掘り下げてアイデアを生み、新たなものを作り出す

論理的思考・批判的思考は、どちらも「物事の因果関係」が思考の起点となり、デザイン思考の「ユーザ視点」とは異なります。また、物事に矛盾のないよう客観的・論理的に考えて結果を導き出す点も、ユーザの気持ちに寄り添って考えるデザイン思考との大きな違いと言えるでしょう。
システム思考は複数の要素の影響や作用状況を俯瞰する視点、アート思考では自身の欲求に合わせた視点で問題解決を図ります。デザイン思考は「ユーザに寄り添った」視点が重要となるため、思考の起点から異なっています。

デザイン思考が注目されている理由

昨今、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進や働き方改革などによる働き方の多様化に加え、行動様式や消費行動も大きく様変わりしています。そのような状況から、デザイン思考がビジネスで注目されている主な2つの要因について、ご紹介します。

消費者が求めるものと市場の変化

現代社会ではモノやサービスがあふれており、飽和状態になっています。そのため、ユーザにとっては「良いもの」「便利なもの」が存在することは当たり前となり、付加価値、プラスα が求められる時代となりました。これらのことから、市場調査を行ってニーズに合わせた商品を開発・販売する「仮説検証型」のアプローチは限界を迎えている、といえるでしょう。

DX推進の必要性

経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」では、2025年の崖について現状の課題や対応策を示しています。その対応策の中で、既存システムの刷新などにおける人材として「ユーザ起点でデザイン思考を活用し、UX(ユーザエクスペリエンス)を設計し、要求としてまとめあげる人材」が必要であると示されています。これらのことから、デザイン思考で本質的課題を見つけ出せる人材が必要不可欠である、といえるでしょう。

参考:経済産業省|DXレポート

デザイン思考のメリット

デザイン思考を取り入れた場合、組織運営やビジネスの場だけでなく、個人のスキル向上にもメリットがあります。ここではデザイン思考のメリットを5点、ご紹介します。

アイデアの提案がしやすい環境が作れる

デザイン思考の取り組みでは、さまざまなメンバーを集めてアイデアを出し合うことが重要となります。業務にデザイン思考を取り入れることで、立場や役職、実現可能かどうかなどにとらわれず、意見交換や提案が行いやすい環境を構築することができるでしょう。

柔軟な発想から新しいアイデアが得られる

デザイン思考には、さまざまな意見を受け入れることで新たなアイデアや発想が得られる、という考え方があります。前述した環境ができれば、提案されたさまざまな意見を受け入れ、枠にとらわれない発想が可能となるでしょう。

スキルの向上ができる

デザイン思考の工程では「ユーザの潜在的なニーズを見つけ、解決策を探る」というものがあります。この工程では「質問する・思考する・提案する」といったスキルが必要となります。デザイン思考を取り入れ習慣づけることで、3つのスキルを鍛え、向上させることが可能です。

ニーズに合った製品・サービスの開発ができる

前述したように、デザイン思考で必要となるのはユーザの潜在的なニーズを見つけ、解決策を探ることです。潜在ニーズを探し解決しようと試みることにより、ユーザが本当に求めている製品・サービスの開発につなげられるでしょう。

デザイン思考のプロセス

デザイン思考のプロセスには、スタンフォード大学のハッソ・プラットナー・デザイン研究所が提唱している5つのステップがあります。

  • 共感(Empathize)
  • 定義(Define)
  • 概念化(Ideate)
  • 試作(Prototype)
  • テスト(Test)

どういったことを行うステップなのか、ポイントは何か、1つずつ内容を見ていきましょう。

1.共感(Empathize)

最初のステップは共感です。ユーザの視点に立って課題を捉え、考えるプロセスです。具体的には、インタビューやアンケート、消費者の行動観察などを行い、ユーザの意見や何に共感したのかといった情報を得ていきます。情報を得るには観察することも重要と言えるため、このステップでは「観察・共感」することが必要な作業、ポイントと言えるでしょう。

2.定義(Define)

「共感(Empathize)」のステップで得た情報を元に、ユーザが何を求めているのか、といったニーズを見定めるステップです。集めた情報から「具体的な問題・課題は何か」「ユーザの潜在ニーズは何か」といった仮説を立て、課題を解決するための方向性を見定める、重要なプロセスといえます。そのため、課題の内容によっては、納得できる仮説を導き出すまでに、何度も情報の見直しや検討を行う必要があるでしょう。

3.概念化(Ideate)

このステップでは「定義(Define)」で定めた仮説を元に、課題を解決する方法やアイデアを考えます。複数人でアイデアを出し合う必要があるので、ミーティングよりも、フレームワークやブレインストーミングなどを用いることが重要です。

ポイントは、質の高いアイデアを出すよりもチーム内でより多くのアイデアを出し合えるよう心掛けることです。互いのアイデアを肯定的に捉えて、強みや良い点に着目して評価する「良い出し」を行うと良いでしょう。

4.試作(Prototype)

「概念化(Ideate)」で見つけ出したアイデアの中で、多く支持を集めたアイデアを検証するために具現化するステップです。この段階で作るのはあくまで試作品のため、完璧なクオリティを求められるわけではありません。しかし、ビジュアルデザインが魅力的に映らなければ、ユーザの支持を集めにくいため注意が必要です。

試作品を作成する目的は、実際に目に見えるものを提示し触れてもらうことで、ユーザ目線のフィードバックを受け取ることにあります。目的を意識しつつ、試作品を製作すると良いでしょう。

5.テスト(Test)

このステップでは、試作段階で作成したプロトタイプでユーザテストを行い、受け取ったフィードバックから「定義(Define)」が正しかったかを検証します。しかし、検証して終わりではなく、得られた意見や検証結果から新たな課題の洗い出しや、改善・再考を繰り返し行います。

定義した課題が適切でなかった場合は、最初のステップに戻り、検討し直すことも必要となるでしょう。

デザイン思考の導入事例

ここからはデザイン思考を取り入れ、5つのステップを経て開発に結び付いた代表的な事例を、海外・国内問わず3つご紹介します。

携帯音楽プレーヤーの開発

世界的な大企業であるApple社は、デザイン思考を取り入れた開発事例として『iPod』開発が広く知られています。

まずApple社はユーザが音楽をどのように聴いているのかを調査し、得た情報から「CDからPCへの音源保存に手間を感じるユーザが多い」ということを発見しました。そのユーザニーズを解決するべく、「全ての曲をポケットに入れて持ち運べる」といったコンセプトを立ち上げ、製品開発を行いました。

家庭用ゲーム機の開発

日本企業で代表的な開発事例としては、任天堂株式会社の家庭用ゲーム機『Wii』が広く知られています。

『Wii』を開発するにあたって、まず社員の家庭を観察することから始めました。観察するなかで、ゲーム機があることで「子どもと親の関係が悪化しやすい」「子どもがリビングに滞在する時間が短い」などの状況が確認されています。これらのことから「家族で楽しめて、家族関係を良くするようなゲーム機」というコンセプトが生み出され、親子間でも使いやすいリモコンのようなコントローラーや、リビングに置けるコンパクトな本体が開発されました。

電動歯ブラシの機能開発

P&G社が手掛ける家電ブランド『BRAUN』が開発した電動歯ブラシも、デザイン思考を取り入れた代表的事例として知られています。P&G社は、電動歯ブラシを使用するユーザを観察して「充電器が使いにくい」「替えのブラシを買うタイミングが分かりにくい」などの不満や潜在ニーズを発見しました。その解決策として、汎用性の高いUSB充電機能の増設や、専用アプリケーションによる替えブラシの自動リマインド機能などを開発・実装しました。

デザイン思考テストとは?

デザイン思考テスト公式サイトによれば、本質的な課題を発見して解決策を考え出す「デザイン思考力」を測定できるオンラインテスト、とのことです。

テストには誰でも受験可能な公開テストと、各企業・団体が申し込んだ場合のみ受験可能な団体テストの2種類があります。結果は基本的に開示されており、団体テストの場合のみ、企業・団体が開示か非開示かを選べるようです。

他にも、トレーニングツールとして「5d」というSNSサービスや、動画・書籍なども紹介されており、個人でデザイン思考テストに挑戦しやすいよう学習サポートが用意されています。

参考:VISITS Technologies株式会社|デザイン思考テスト

テストの内容や流れについて

デザイン思考テストは、創造セッションと評価セッションと2つのセッションで構成されています。どちらもセッション時間は30分です。創造セッションの出題はキーワード選択式で、提示された中から選択したキーワードからアイデアを作成します。評価セッションは、創造セッションで作成された他の受験者のアイデアを評価するものとなっています。

評価項目は、創造セッションで2つ、評価セッションで2つと合計で4つあり、各100点の400点満点です。

  • 創造セッション:ニーズ発見力、ソリューション創出力
  • 評価セッション:ニーズ評価力、ソリューション評価力

創造セッション

創造セッションは提示されたキーワードから選択し、選択したものからアイデアを記述するものになります。手順は4段階あり、以下のような手順でセッションが進みます。

  1. Who(誰が)、Where(どこで)、When(どんな時に)を選択します。
  2. 選んだ状況での、Why(叶えたい願望)を記述します。
  3. What(Whyの解決のために何を使用するか)を選択します。
  4. Whatで選択したものを使用して、Whyを解決するHow(解決法)を記述します。

記述が終わり次第、提出して終了です。選択して次に進んだ場合、選択し直すことはできませんので、注意しましょう。

例題と解答例

デザイン思考テストの問題は、以下の画像のような出題形式となります。実際のテストでは動的ですが、問題のイメージ例を伝えるものなので、この画像は動きません。

デザイン思考テストの出題例の画像

例えば、画像内のキーワードから「話し好きな会社員が(Who)」「近所のカフェで(Where)」「急いで電話しているとき(When)」を選んだとしましょう。このシチュエーションから「できるだけ早く情報を届けて一緒に話がしたい」というニーズが見えてきます。連絡方法にメールなどではなく電話を使用していることから、緊急性もしくは今すぐどうしても伝えたいことがあると推測できます。

ここから解決に導くとすれば「文字・電話問わず、連絡が来たとすぐに判れば、急いで連絡を取り合え、タイムロスを防ぐことが可能となる。さらに他のSNSアプリと連携することで、SNSアプリの不具合があっても連絡に気付きやすくなる」といったツールやアプリがあればニーズを満たすことが可能となる、といった解答ができるでしょう。

評価セッション

評価セッションは、以下の4つの問いに答える形で、他の受験者のアイデアを評価していくものになります。

  • Whoの立場になったときに共感できる内容か?
  • 現状、他の方法によって実現できていない願望か?
  • 新規性の高い解決方法か?
  • ニーズの実現に有効な解決策か? (実現可能性も評価)

注意する点としては、他人のアイデアに対して「誠実に、的確な意見を出すこと」を意識することです。実際のデザイン思考はチームディスカッションなど、他者との対話の中でアイデアを生みだしていくものになります。的確な意見を出すことが難しいとしても、対等な意見として誠実に評価すると良いでしょう。

デザイン思考テストの対策やコツは?

デザイン思考テストへの対策には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、個人で取り組める対策を5つほど、ご紹介していきます。

1.普段から意識して思考するくせをつける

デザイン思考テストで点数を取るためには、日常的に思考し、頭を働かせているかが重要です。そのため、普段からさまざまな物事に対し「なぜ? 」と感じ、考えることが大切になります。

普段から使用しているサービスや製品に対し、数ある中から「なぜ自分はこれを選択して使用しているのか」といったことを考え、言語化できるようにしていきましょう。

2.自分が想像しやすいシチュエーションを選ぶ

実際のテストでは30分の時間制限があり、その間に選択したキーワードから想像し、アイデアを生み出す必要があります。この時、自分が想像しやすいシチュエーションを選ぶことが非常に重要です。また、自身の経験に近いキーワードを選ぶと、よりニーズなどの想像がしやすくなり、深掘りしたアイデアを出すことも可能となるでしょう。

3.アイデアのインプットをしていく

テストでは多様なキーワードが提示されるため、多様なアイデアを持っていると、さらに想像しやすくなります。場合によっては想像しにくいキーワードに当たる可能性もあるので、さまざまな知識や情報をインプットしておくことが大切と言えるでしょう。たとえ興味がないものであっても、調べて知識を得ておくことで、想像の幅が広がるかもしれません。

4.タイピング練習をしておく

創造セッションには記述問題があります。選択したキーワードから想像したシチュエーションや、それに応じた解決策などを記述しなくてはなりません。時間も30分と短く限られているため、タイピング入力が速く正確であることは有利と言えます。正確で素早い入力が行えれば時間に余裕を持てるので、落ち着いて考えることができるでしょう。

5.実際にテストを受けてみる

さまざまな対策を練ったとしても、実際にテストを受けてみなくては感覚的にわかりにくい可能性があります。公式サイトのチュートリアルで体験することは可能ですが、時間制限がなく共に受ける相手は存在しませんので、体感することは難しいでしょう。

その場合は、一度体験するつもりでテストを受け、経験を得てから対策を練ってみる、という対策方法もあります。受験結果ではアドバイスをもらうことができるため、就活でデザイン思考テストが必要な場合の対策になるかもしれません。

まとめ

デザイン思考はさまざまな思考法の中でもユーザ視点、消費者視点に寄り添った思考法です。今後は、これまで当たり前としていた市場が変化することやDX化が進むことは確実であり、今まで以上にユーザが求めるものを見つけ出す必要が出てくるでしょう。現状の「さらに良い便利なもの」といった需要に対し、本当に求められているものを見出すために役立つといえます。

思考法プロセスにおける5つのステップは、一通り終われば終了ではなく、改善と再考を繰り返し行うことが重要になります。ユーザ視点だけでなく、ユーザにより良いものを届けるべく、常に思考し改善・解決を試みることがデザイン思考を取り入れるうえで大切なことといえるでしょう。

最後のチェックポイント

  • デザイン思考とはユーザ視点から課題や潜在ニーズを見つけて解決を図るもの
  • モノやサービスの飽和状態や消費行動が大きく様変わりしたことで注目された
  • 組織運営やチーム力・個人のスキル向上など、さまざまなメリットがある
  • 5つのステップは、一通り終わっても改善と再考を繰り返し行うことが重要
  • 「デザイン思考力」を測定できるオンラインテストがある

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